全 情 報

ID番号 05364
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 カルケット食品事件
争点
事案概要  会社の営業不振、金融難等に起因するいわゆる経営障害による休業につき、民法五三六条二項には該当しないが、労働基準法二六条に該当するとされた事例。
参照法条 労働基準法26条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 休業手当 / 労基法26条と民法536条2項の関係
裁判年月日 1955年12月17日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和30年 (ヨ) 1095 
裁判結果 申請一部認容,一部却下
出典 労働民例集7巻1号115頁/時報69号19頁/ジュリスト99号69頁/労経速報211号2頁
審級関係
評釈論文 季刊労働法20号107頁/沼田稲次郎・判例評論5号18頁/討論労働法52号26頁/平田一夫・ジュリスト110号8頁/労働経済旬報291号22頁
判決理由 〔賃金-休業手当-労基法26条と民法536条2項の関係〕
 1、会社が本件休業に入るに至つた前記事情に照らすと、本件休業は不可抗力或は組合従業員等の責に帰すべき事由によつて招来されたものでは勿論ないが、さりとて会社幹部等の故意過失によつて惹起されたものと認めるに足る疏明もないのであつて、むしろ前記のように会社の営業不振、金融難等に起因するいわゆる経営障害による休業の場合に該当すると考えるのが相当である。
 2、申請人は本件休業は昭和二八年七月一三日付覚書による取極めに違反し組合と協議することなくなされたから違法であると主張し、被申請人は右覚書は本件の如き短期間の休業には適用せられる趣旨ではないから、なんら組合と協議決定する必要がないという。この点につき、昭和三〇年五月三一日の会社の株主総会において前記の如く大阪工場閉鎖が議案として討議せられ同日右閉鎖決議がなされているのであるから、総会招集のために必要な期間並に準備態勢を要する事実と前記の如く五月中ごろには右閉鎖の噂が大阪支店の幹部から流布されていたことと思い合わせると、少くとも本件休業を申入れた五月一七日には会社における大阪工場閉鎖、これに基く人員整理の方針は確定していたものと推認せられるのである。してみれば、本件休業は大阪工場の閉鎖に連繋発展する休業たることを本然の姿とするものであつて、かかる休業こそ、まさしく右覚書にいわゆる「事業場の閉鎖若しくは縮少等従業員に重大なる影響を及ぼす事項」に外ならない。従つて、会社はかかる休業につき事前に組合と協議するを要することも右覚書の通りであるから、被申請人の右主張は理由がない。
 3、申請人は会社は本件休業につき組合となんら具体的協議をせず、また協議をなす意思すらなかつたから、本件休業は違法であると主張するのであつて、成る程会社側が休業の申入及びこれに次ぐ二回の団交においてなんら具体策を明示せず、ただ漠然と五月三一日に予定されている株主総会の結果をまたなければなんとも言明できないとか会社の経理内容を知らせるわけにはいかないとかいう程度の説明に終始しているところからすれば、申請人の主張する通り前記覚書にいわゆる「具体的な方法について」十分意を尽して「協議」したとはいいかねるものがあり、かかる説明のみで会社が本件休業に入つたことは、いかにも強引に過ぎる嫌いを否み得ないけれども、会社側には協議の必要を完全に無視して一部組合員を苦しめる目的で休業を命じるような故意はなく、兎も角五月一七日に休業を申入れて以来二回に亘り、組合と交渉しており、会社の企業自体が経営障害により大阪工場の閉鎖にまで持込まれるような客観的状勢にあつたことや休業申入当時生産部門は殆んど停止し組合自身も会社の休業申入に対して窮極において労務債権の保障さえ得られれば休業に原則的に反対しないという程に会社の経営悪化の事実を認識していたことを併せ考えると、会社にこれ以上の協議を強いることは苛酷であるといわざるを得ないのであつて、右程度の話し合いの上でなされた会社の休業も所詮やむを得ないというの外なかろう。
 4、従つて本件休業は民法第五三六条第二項にいうところの使用者の帰責事由としての故意過失を欠くから同条項の適用は受けないが、しかし労働者の生活保護の目的から設けられた労働基準法第二六条所定の使用者の責に帰すべき休業の範疇には属するものと解するのが相当である。