ID番号 | : | 05367 |
事件名 | : | 解雇無効確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 川崎重工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 退職期間勧告中退職を申し出ないときはその期間満了の翌日に解雇する旨の条件付解雇の意思表示につき、右解雇の意思表示が無効であるときは、退職勧告に応じた退職届によっても合意解約は成立しないとされた事例。 整理解雇基準に該当しないとして解雇が無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性 退職 / 合意解約 |
裁判年月日 | : | 1955年12月26日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和27年 (ワ) 928 昭和28年 (ワ) 863 昭和29年 (ワ) 358 |
裁判結果 | : | 一部棄却,一部認容 |
出典 | : | 労働民例集7巻1号170頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 季刊労働法27号130頁/日労研資料346号3頁 |
判決理由 | : | 〔退職-合意解約〕 原告等は被告のなした昭和二五年一〇月一四日の解雇の意思表示の効力を争い被告は円満退職で一方的解雇ではないと主張するので先づその点について判断する。 〔中略〕被告会社は被告主張のような事情の下に昭和二五年一〇月頃従業員の整理を断行することとなり同年一〇月一四日附を以て原告等を含む一部従業員総数約一〇五名に対して被告主張のような退職の勧告と同時に条件附解雇の意思表示をなしたこと、これに対して原告等の中原告等主張のようにX1外一四名を除くその余の原告等は全部被告会社の申入どおり退職届を提出して(提出の日時の点はここでふれないでおく)退職金等を受領したもので退職届を提出しなかつた原告X1等一五名も条件附ではあるが後日退職金等を受領したものであることを認めることができる。 右事実だけから見ると原告等少くとも退職届を提出した原告等は被告の勧告に従つて任意退職し、両者間の労働契約は合意の上解約せられたものと解するのが適当であるように考えられる。 しかしながら原告等は被告のなした一〇月一四日附解雇の意思表示は共産党員又は同調者であるという外に何等の理由がなく無効であると主張し原告等のなした退職届の提出は右申入に応じてなされたものであること前認定のとおりであるので右解雇の意思表示が無効であるとすれば退職届の提出による合意解約も不成立に終ると解されるのでこの点について判断すると 〔中略〕 被告会社には共産党川崎細胞が存在し昭和二三年頃から同二五年頃にかけての日本の労働組合運動に見られるように被告会社の経営方針に対して絶えず批判的立場に立ち従業員に対して会社攻撃の宣伝運動をなしており被告会社に起つた昭和二四年五月頃の泉州工場閉鎖問題同年一一月の越年資金運動昭和二五年三月から五月にかけての一万二千円の賃上運動等について活溌な反対運動を続け被告会社としてはその対処に苦慮したもので右各事件で反動運動に活躍した従業員は被告会社内から除外したい意向を強めるに至つていたが当時の労働情勢から直にこれを就業規則等によつて処置しかねていたところ昭和二五年八月頃から進駐軍の労働課長A氏から被告等造船界の部門でも共産党員その他会社の経営方針に反対する者は所謂追放すべきだとの意見が出され新聞業界その他についても順次所謂レッド・パージが行われるに至つたので被告会社の関係首悩部ではこの機を逃さずとなし所謂レッド・パージを表面に持ち出すのは適当でないと考え被告主張のような整理基準を作成し密かにその準備を進め昭和二五年一〇月一四日被告会社の年中行事の運動会の予定日の前日而も同日被告会社の労働組合と団体交渉を持つていたのにもかかわらず、それにも諮らず突然に予め印刷しておいた書面で原告等を含む約一〇五名に対して被告主張のような条件附解雇の意思表示をなしたものであること。 一方被告会社の労働組合では昭和二五年一〇月頃所謂レッド・パージの行われんとする情勢を察知し本部からもそれに対する対策を構ずるよう指示されていたけれども当時の情勢としては共産党員なるが故の解雇はこれに対抗し得ないものとの考方が強く本件解雇の意思表示も実質的には所謂レッド・パージと考え十六日から二〇日頃にかけて被告会社と団体交渉を重ねていたが全面的には反対しかね、被告の主張する整理基準に該当する具体的事実の明示を求めたが被告は十分調査済と答えるのみでこれに応ぜず止むなく本件整理を承認するとの組合決議をなすに至つたもので解雇の申入を受けた原告等の多くは組合が本件整理を承認した以上被告会社に対して争うことも至難と考え而も被告としては退職金の外に特別の餞別金を支給するという方法を取つていたのでいずれもその意に反しながら生活上の必要からも被告の求める退職願を提出したものであること、本件整理の基準として被告は抽象的な二、三の事項を挙げているけれども解雇の申入を受けたのは共産党員又はその同調者と見られたものが大部分であり、それ以外に整理基準に該当する具体的事実の指摘を受けて解雇を申入れられたものはなかつたことをそれぞれ認定することができる。 右のような事実関係の下においては、被告のなした本件整理即ち集団的な解雇の申入は共産党員又はその同調者であることが同時に被告のいう整理基準に該当するものであると判断しない限り-当時の情勢として共産党員が被傭会社の経営方針に反対して被告のいう整理基準に該当する行為をなし勝ちのものであつたことは推認できるし被告訴訟代理人自身もその趣旨を述べているけれども右のような判断は当裁判所の採らないところである-他に解雇について整理基準に該当する具体的行為の存しない以上本件解雇の申入は何等の理由ないもので無効のものといつて好い。それであるのにかかわらず被告訴訟代理人は退職届を提出しなかつた原告X1等一五名に対して右の如き具体的事実の主張をなすに止まりその余の原告等に対しては円満退職なりとしてその主張立証をなさないものである。よつて被告のなした本件解雇の申入は他に整理基準に該当する具体的事実の主張立証なき限り所謂レッド・パージとして不当労働行為に該当するかどうかの問題を別にして原則として効力ないものと解すべきで、原告等がこれに対して仮処分の申請をなしたかどうか、退職願を提出して退職金を受領したかどうかの点にふれるまでもなく無効であると解するのを相当と考える。 〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕 そこで原告等の中で果して整理基準に該当する者があつたかどうかの点について判断することにする。 〔中略〕 原告X2、同X3、同X4、同X5、同X6、同X7、同X8、同X9、同X10、同X11についてはいずれも共産党員として活躍していたばかりでなくその多くは労働組合の役職員の地位にあり前認定の越年資金運動一万二千円の賃上要求運動のときにも常に率先して会社の方針に反対して(1)デモ隊のリーダー格になつたり(2)職場大会でアジの音頭を執つたり(3)上司に面会を強要したり(4)度々職場を離脱したりして大体被告主張のとおりのような各具体的行為をなしたものであることを認めることができるけれども原告X1、同X12、同X13、同X14、同X15については上記の各証拠によつても同原告等が共産党員として党活動に活躍していたことは認められるけれども被告の主張するような整理基準に該当する具体的行為があつたとは到底認めるに足らずその他にこれを認めるに十分な証拠がない。退職願を提出しない原告X1等十五名を除くその余の原告等については共産党又はその同調者であるから整理基準に該当するという外にこれに該当すると認められる具体的行為については上記各証人の証言中該当者として数名乃至十名位は名前の出て来る者がいる程度でそれ以外に何等これを認めるに足る主張も立証も殆んどなされていない。 右のような次第で被告のなした本件解雇の意思表示は被告主張の整理基準に該当する具体的行為の存することの認定される原告X2等十名らについて正当で有効といえるけれどもその余の原告等については何等理由のないもので無効と解すべきものと考える。 |