全 情 報

ID番号 05379
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 日立電子事件
争点
事案概要  系列会社に対する出向命令につき、会社に業務上の必要性があり、不当労働行為ではないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法625条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
裁判年月日 1964年3月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和38年 (ヨ) 2197 
裁判結果 申請棄却
出典 時報373号43頁
審級関係
評釈論文 平野毅・労働経済旬報596号28頁/蓼沼謙一・労働法学研究会報594号1頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 五、本件出向命令についての不当労働行為の成否
 (一) 出向後においても申請人は会社従業員として給与、昇進等の待遇になんら変りはなく、勤務時間の点ではむしろ若干有利となることが予想されること、申請人が出向先で担当すべきセールス・エンジニヤの仕事が生産部門、設計部門と並び企業内における実務技術家としての固有の活動領域に属し、この職歴を経ることが一般的に、また会社内においても技術者としての将来に致命的なマイナスとなる類のものでないことは、いずれもこれを認めるに難くないけれども、東京と本件出向先の福岡では多少とも文化的経済的生活条件に落差があり、一般に俸給生活者(特に申請人のような大学卒の)の間に中央大都市から地方への転出を嫌う傾向があることは否めない事実であり、また技術者(特に申請人のように若い)にとつて技術の売込みといつた営業的色彩の濃いセールス・エンジニヤの仕事が生産ないし設計部門の仕事に比べて一般に魅力に欠けるものであろうことは、常識的に技術者気質といわれるものからも推測されるところであつて、現に会社内の若い技術者の間にこの仕事を歓迎しない気風があつた事実が窺われる。さらに出向先で申請人の組合活動が著しく困難となることも明らかであるから、会社に不当労働行為意思が認められる限り、本件出向命令は労組法第七条にいう不利益取扱ないし支配介入に当るといえる。
 (二) そこで、会社が申請人に対し本件出向を命じた意図について、検討してみるのに、
 1、会社が申請人を出向者に選定した理由が一応合理的なものとしてうけとられることは、上記四に判示したとおりである。
 2、申請人の組合活動は、(1)昭和三六年組合結成当初の解雇反対斗争(申請人の主張(一)の1(1))、(2)昭和三八年の春斗(同2)、(3)同年の秋斗の三時期におよそ区分される。このうち(1)の時期における活動が最も活溌で、青婦部副部長(もつともこの期間は約二週間で短い)ないし「A誌」の編集委員として、組合活動に比較的重要な地位をしめていたが、昭和三六年八月他の同僚二名とともにB会社戸塚工場に出向を命じられた際には、申請人も組合もこれを不当配転として争つた形跡はなく、右出向中の約一年七カ月は全く組合活動をしていない。(2)および(3)の時期における組合活動は、主として職場討議における執行部案に対する反対発言であるが、これらの時期においてこれと同程度、同内容の組合活動が他の組合員によつても相当広く行われたであろうことは、春斗の執行部案が大会で一旦否決された事実からも窺うに足り、執行部案に対する反対活動において申請人がとくに際立つて中心的役割を演じたという疏明は、不十分である。
 3、申請人の上記(1)ないし(3)の組合活動のうち、代議員立候補についてはもとより、その他の組合活動について、会社の職制、少くとも申請人の直属上司である主任、課長はこれを窺知していたものと認められるし、会社がCら旧幹部の解雇反対斗争に反情を抱いていたことも前記(二の(二))のとおりであるが、申請人が明確にCらの主張に同調しこれを支持する組合活動を行つたのは(1)の時期に限られ、以後の組合活動については、昭和三八年末本件出向の件が表面化するまで、Cらないし前出「馘首反対斗争委員会」の活動と交渉があつたことの疏明がない。
 叙上の点を上記一ないし四に認定した結果と照し合せて考えると、本件出向命令が申請人の組合活動の故にまたは組合の運営に支配介入する意図からなされたことにつき十分疏明があつたものとはいい難く、不当労働行為の主張は理由がない。