全 情 報

ID番号 05386
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 昭和産業相互銀行事件
争点
事案概要  昇格拒否、業務命令違反を理由とする組合役員に対する懲戒解雇につき、権利濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1964年6月19日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ヨ) 82 
裁判結果 申請一部認容
出典 労働民例集15巻3号694頁
審級関係
評釈論文 川口実・法学研究〔慶応大学〕38巻10号115頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 (2) してみると、申請人の本件昇格発令違反ないし業務命令違背につき同人を企業外に放逐する退職処分によつて懲戒することは相当でないと解せられる。
 けだし、(イ)、本件人事異動に、これをなす必要性と合理性の存したことは前記認定のとおりであるが、その必要性ないし合理性がさして高度のものでないことが前記(一)、2(2)、(ロ)の認定事実自体から明かであり、右認定のように次長と副長の職務代行権限の順位及びこれに附帯する範囲内での処理事項に差異があるだけで具体的な内容上の相違は存しないのであるから、申請人の次長職発令拒否ないし次長職を遂行すべきことの業務命令に対する違背による会社の生産性昂揚に対する不寄与は、なるほど債務不履行たることは疑なく従つて契約解除原因には当るであろうけれども、経営者からの一方的制裁である懲戒の対象としては、さまで非難するに当らないものといわなければならないし、(ロ)申請人の昇格発令ないし業務命令違背は企業の秩序保持義務違反に当るけれども、右(イ)の会社の生産性昂揚に対する不寄与の点を捨象すると、前記(一)2、(2)、(ロ)の認定事実自体から本件人事異動は一応の必要性の上に立つ合理性を以てその基準としこれにつき組合と協議を経たものであること、換言すればその基準は精細ち密でないものをかなり含むことが明かであり、従つて右認定のとおり組合員たる地位にとどまり組合活動をすることを希望している申請人が、一方的に組合から本件人事異動によつて排除せられるとするのは(前記認定のように正当の事由を具備しているとはなしがたいけれども)あながち経営秩序を理由もなく無視しているとして責められないものを含んで居り、右義務違反の問責についてたとえ他戒の意味を含ませることが必要であるにしても、この点は十分に考慮せられなければならないところ、(ハ)協約第五六条は前記のとおり、懲戒処分として、訓戒、譴責、出勤停止、減俸、降職、諭旨退職、懲戒解雇の七種を定めており、右(イ)(ロ)の事情の存在からすれば、例えば降職の処分をなす(もつとも、この場合申請人を副長の職におくことは他戒の目的を達し得ないであろうから、課長ないしそれ以下の職にまで降職することにはなる)ことなどにより申請人に対する懲戒の目的を十分に達し得べく、懲戒処分として申請人を企業外に放逐することは客観的に見て相当な範囲を逸脱しているといわなければならないからである。
 3 しかるところ、懲戒は経営秩序の維持及び生産性の昂揚という目的のために許された制裁であり、従つてその目的に即応する客観的な相当範囲内のものに限らるべく、その限界を超えたものは無効のものといわなければならないから、結局のところ、本件解雇は懲戒権の限界をこえこれを濫用してなされた無効のものと認められる。