全 情 報

ID番号 05389
事件名 災害補償金請求事件
いわゆる事件名 岸和田労基署長事件
争点
事案概要  労働基準法における休業補償と休業補償についての時効について判断された事例。
参照法条 労働基準法76条
労働基準法77条
労働基準法115条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 時効、施行前の疾病等
裁判年月日 1964年6月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ワ) 1431 
裁判結果
出典 タイムズ170号254頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-時効、施行前の疾病等〕
 ところで、被告は右休業補償、障害補償等の災害補償請求権は労働基準法第一一五条により二年間これを行わないときは時効により消滅するところ、原告は右事故発生の翌日から二年間これを行わなかつたから昭和三六年五月四日を以て右請求権は時効により消滅した旨主張するので考えるのに、原告はこの点につき右請求権は民事一般の時効期間たる一〇年の時効に係るものであると主張するが、労働基準法第一一五条は、民法上の賃金債権の時効期間一年では労働者の保護に欠け、また一般債権の一〇年の時効期間では使用者に酷になるとの見地から、特に右請求権については消滅時効を二年と定めたものであるから、右請求権については民法上の一般債権の時効によるべきものでないことは極めて明らかであるから、この点の原告の主張は理由がないものというべきところ、右請求権の発生時期について考えるのに、いわゆる休業補償は業務上の傷病の治療に費した期間中の休業に対して行われるものであるところ、右休業補償はその性質上通常の賃金支払期日に行うべきものと考えるのを相当というべく、毎月一回以上これを行うべきものである(労働基準法施行規則第三九条)から、右休業補償の時効は遅くとも、昭和三四年七月一日からその進行を始めるものと解すべく、それから二年を経た昭和三六年六月三〇日を以て時効が完成すべきところ、原告においてその中断事由については何等主張立証しないところであるから、右休業補償請求権は同日を以て時効が完成し、消滅したものといわねばならない。次に障害補償請求権について考えるのに、労働基準法施行規則第四七条によれば「障害補償は、労働者の負傷、又は疾病がなおつた後、身体障害の等級が決定した日から七日間以内これを行わなければならない」と規定し、障害補償の給付時期を定めているところ、その注意は、結局債務の履行の時期を定めたものと解するのを相当とするところ、右障害の等級の決定した日とは労使間で話合がつけばその日、意見が一致しなかつたときは行政官庁の審査、又は仲裁のなされた日、又は裁判所で決定された日等をいうものと解すべく(昭和二七年基発第六七五号参照)原、被告間にかかる等級について話合のなされたことのないことは原、被告各本人の供述により明らかであるが、前記甲第一号証と証人Aの証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、所轄行政官庁たる岸和田労働基準監督署長は昭和三五年一一月右障害の等級を決定したことが認められるから、右障害補償の履行期は遅くともそれから七日を経過した日を以て到来すると共に、原告は右決定の日の翌日までは給付の請求をなしえないものというべく、従つて、右請求権は請求権発生の時期如何に拘らず、その時から消滅時効の進行を始めるものというべきである。してみると、それから二年内なる昭和三七年四月一七日に本訴が提起されていることを記録上明らかであるから、右障害補償請求権については時効は未だ完成していないものというべく、この点に関する被告の抗弁は理由がない。