全 情 報

ID番号 05393
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 京王自動車練習所事件
争点
事案概要  会社が班長らの給与改訂の要求を拒否したことに対し、班長辞任届を提出し、撤回要求にも応じなかったことを理由とする懲戒解雇につき、権利濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1964年7月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ヨ) 2136 
裁判結果 申請認容
出典 労働民例集15巻4号905頁/時報384号52頁/タイムズ164号146頁
審級関係
評釈論文 加藤俊平・ジュリスト361号314頁
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 被申請人は、申請人らが前記認定のように辞任届を提出し、その撤回要求に応じなかつたことは業務命令違反となる旨主張するが、
 〔中略〕
 かねて申請人ら指導班長は、班長の給与体系が班員すなわち組合員たる指導員のそれと同一であるため、職制として班員の指導掌握の実をあげることも困難で、このような会社と組合の板ばさみに立たされる班長制度に矛盾を感じ、給与体系を職制給に改訂するようたびたび上申し、所長もその都度班長らの意見は十分上司に伝えておくと言つていた。昭和三七年末頃所長からいよいよ次期から班長の給与体系が改訂されそうだと言われ、次いで前記昭和三八年春闘の団体交渉が行われていた当時A次長から所長の骨折りで給与体系改訂も実現されそうだと聞き、また前記五月二一日の班長会議においても所長から「こんどこそ何とかなるので私にまかせてくれ」と言われたので、申請人らは所長に折角努力して貰いたい旨要望し、その成果を期待していた。ところが、前記認定のとおり二三日になつて給与体系改訂は全面的に実行されないことを告げられたので、申請人らは交渉推進の手段として前記辞任届を所長に提出し、その際まず給与体系の改訂につき本社側の再考を求め話合いの機をつかむことが目的であるから、必ずしも辞任を固執するものではなく、辞任届は所長の判断によつて右目的に応じ適宜処置されたい旨希望した事実が認められる。果してそうだとすれば、辞任届を提出した指導班長らの真の意図は、前記のとおり給与体系改訂に関する情勢の急変におどろき、強硬な態度に出ることにより、所長を通じてする改訂についての交渉を強力に推進するにあつたのであつて、班長辞任の申立は給与条件に関する労使交渉の場における一個の闘争手段としてなされたものであることが明らかであるから、改訂交渉に入ろうとするに際して辞任届を提出したことはもとより、未だ十分に交渉が重ねられたとは言えない段階において、申請人らがにわかに会社の辞任届撤回の要求に応じなかつたことをもつて、平常の職場における上長の指示命令に対する不服従と同視し、業務命令に違反したとして問責することは、失当である。前認定の申請人らの言動をもつて著しく会社の秩序を乱す行為とは認め難く、他に申請人らが班長としての業務を現実に拒否したとか、会社の業務を妨害した等の事実を認めるべき疏明はない。
 以上認定の経緯に徴すれば、本件解雇の意思表示は何ら首肯するに足る合理的な理由がなく、班長らの給与改訂要求を抑圧するため性急になされたものと認められるから、解雇権の濫用として無効といわなければならない。