ID番号 | : | 05402 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件/損害賠償代位請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本水産事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 死亡者の内縁の妻に対して労災保険法による遺族補償が支給された場合、相続人の財産的損害賠償請求権について労働基準法八四条二項の適用はないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法84条 労働者災害補償保険法16条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労基法との関係 |
裁判年月日 | : | 1964年11月20日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和33年 (ワ) 306 昭和35年 (ワ) 117 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却 |
出典 | : | 下級民集15巻11号2790頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労基法との関係〕 訴外Aが被告会社主張の労災保険金の給付を受けたことは当事者間に争いない。 労働基準法(以下労基法という。)第八四条第二頃は、「使用者は、この法律による補償を行つた場合においては、同一の事由についてはその価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。」と規定しており、保険制度の目的からみて、この規定は労災保険法の規定により保険給付がなされ、これにより使用者が災害補償の責を免れた場合にも適用さるべきこと明らかである。 本件では、使用者は訴外B会社であり、被告会社は労災保険法適用の関係では第三者であるが、被告会社に対し国の求償権が存する限りにおいては、被告会社は右「使用者」と同一の関係に立つものと解すべきである。 而して、右規定は法規の単純な文理解釈からすれば、使用者が労基法による災害補償をなし、または政府から被災者等に対し労災保険法による保険給付がなされたため災害補償の責を免れた場合は、その受給者が誰であれその給付された価額の範囲では、当然に民法上の損害賠償の責を免れることを定めたものと考える余地がないでもない。しかしながら、この解釈は実質的にみれば、災害補償を損害賠償の前払または内払として扱うものであり、災害補償制度の目的を没却するものである。すなわち、災害補償は、憲法第二五条に基く生存権保障のために設けられた法定の義務であり、(遺族の生活を保障することも、間接的に右目的に奉仕するものである。)労災保険法による保険制度はそれを担保するものである。従つて、災害補償制度は民法上の損害賠償制度とは本来異質的なものであり、それであるからこそ、例えば遺族補償費給付につき、それは労働力喪失に対する保護という意味で、被災労働者の得べかりし利益の相続と機能的同一性をもつに拘らず、その受給者は民法上の相続人とは別個に、主として被災労働者との生活関係の濃淡に応じその順位が法規により定められているわけである。そこで、原則としては災害補償受給の有無は、損害賠償請求権の存否とは何ら関連を有しないものというべきであるが、補償が金銭給付を本体としてなされる場合は、労働力の喪失毀損に対する損失填補的な機能を営むことを否定しえず、同様の機能を営む損害賠償と必然的に関連性を有するに至る。(右遺族補償費と被災労働者の得べかりし利益との関係もその一例。)そこで、同一の実体を有する同一権利者の損失填補を災害補償及び損害賠償の名のもとに、使用者に重複的に課するとするならば、結果的にみて不合理であり、かつ使用者にとつて酷であるから、この点を調整するのが前記労基法第八四条第二項の趣旨であると解すべきである。従つて、ある一定の資格者に対し死亡による災害補償(遺族補償)がなされた場合、その受給者が死亡者の有する損害賠償請求権を相続したときは、使用者は右受給者の相続分の限度で民法上の損害賠償義務を免れると解すべきである。しかし例え補償額が受給者の財産的損害額をこえていたとしても、その者以外の者の使用者に対する民法上の財産的損害賠償請求権の有無、範囲に影響を及ぼすことはないことになる。(最判民集一六巻四号九七五頁参照)そうであるとすると、修身の相続権を有しない内縁の妻である長谷川が労災保険金の給付を受けたことは、被告会社を右使用者と同一の関係に立つものとみても、原告らの被告会社に対する損害賠償請求権の行使に何ら影響を及ぼすものではないという結論に達せざるをえない。 |