ID番号 | : | 05408 |
事件名 | : | 障害補償金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 阿倍野労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 労働基準法七七条にいう業務上の傷病が「なおったとき」とは、それが完全に治癒した時を意味するものではなく、症状が固定してもはや医療効果が期待できない状態となった時をいうとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法77条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務中、業務の概念 |
裁判年月日 | : | 1965年2月26日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和32年 (行) 85 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | タイムズ174号164頁/訟務月報11巻4号592頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務中、業務の概念〕 障害補償と療養補償を分別している法の趣旨から考えて、前記法条に云う業務上の傷病が「なおつたとき」とは、それが完全に治癒恢復したときを意味せず、その症状が安定してもはや医療効果が期待できない状態となつたときを指すものと解すべきところ、〔中略〕右五名はすべて医師であつて、そのいずれの診断結果によるも、原告の本件災害による負傷疾病は顔面・右肩胛ないし右前膊・せき椎の三部位の外傷及び右外傷に起因する神経症にとどまるところ、原告の右傷病の症状は本件処分当時すでに安定し、もはや適切な医療方法が存しないとの意見であることが認められ、右五名のうち、とくにA、Bは、原告の前記C病院における加療期間(原告受傷後本件処分までの大半の期間)中主治医として長期にわたり原告の診療に従つていた者であり、またDの鑑定は昭和三五年四月原告を直接診断して得た症状所見と従前の原告に対する医師らの診断・治療の経過に関する全資料とを総合検討した結果に基くものであつて、これら医師の意見は、他に首肯するに足りる反証がない限り、みだりにこれを無視することは許されない。 〔中略〕同医師は、昭和三二年五月原告を診断した結果、右肋間及び右足の疼痛軽減のためせき椎固定術を施す必要があるとの意見であつたことが認められるけれども、〔中略〕原告のせき椎外傷部位(第九、一〇胸椎骨折)のレントゲン所見は、昭和二九年五月、三〇年一一月、三一年三月、三五年四月の各撮影時においてほとんど変化が見られないこと、従つてその症状は後記((二)2)の軽度の変形を残したまま昭和二九年五月当時すでに器質的に固定していたものと認めるのが相当であり、かように症状が固定した後にも前記のような疼痛を持続することはあり得るが、もはやせき椎固定術による治療効果は期待できないことが認められるから、右E医師の意見は採用できない。 〔中略〕同医師は、昭和三〇年一二月原告を診断した結果、神経症に基く愁訴軽減のためなお治療が必要であるとの意見を有することが認められるけれども、〔中略〕同医師は外科を専門とし、右意見は外来患者としてただ一回原告を診ただけで本人の愁訴のみを判断資料としたものであることが明らかであるから、前記他の医師らの意見と対比して、たやすく採用することができない。さらに、原告本人尋間中に原告は昭和三二年五月F医院に一五日間入院加療した旨の供述があるけれども、前記Eの証言と併せて検討すれば、右入院は診断を目的とするものであつて、右目的のための試験的措置以外に特段の治療がなされなかつたものと認められる。他に前記五名の医師の一致した意見を覆えすに足りる証拠はない。 以上によれば、本件処分当時原告の負傷疾病はすでに「なおつたもの」と認めるのが相当であり、この点について右処分に事実誤認の違法があるとはいえない。 |