全 情 報

ID番号 05424
事件名 身分確認請求事件
いわゆる事件名 長野県事件
争点
事案概要  警察官による退職一五年後の地位確認請求につき信義則に反するとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条2項
体系項目 解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1965年10月5日
裁判所名 長野地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (行) 2 
裁判結果 棄却
出典 時報441号27頁
審級関係 控訴審/東京高/昭43. 8.29/昭和40年(行コ)44号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇の承認・失効〕
 ところで、右認定事実によってみると、本件懲戒免官処分は、進駐軍の占領下という特殊事情のもとに、その指示に基いてなされたものであり、一面部内においては退職願を徴求したうえ、公然と送別会を催し、餞別を贈るなど任意退職の如き様相を呈しているのであって、その限りにおいては正常でない点がないとはいえない。しかしながら、その処分の形式はともかくとして、当時長野市警察長としては、いずれにしろ原告を退職させるべく同人に対しその意思を明確に表示していたことは明らかであり、原告においてもその際退職については、周囲の情勢から止むをえないものと判断してこれを容認し、任意退職願を提出して退職の意思を表示したのみでなく、退職に際して必要な貸与品の返還手続を済ませてその職を退き、その後自己の商売に専念するに至ったのであるから、原告は右懲戒免官処分の効力如何を問わず、その際任意その職を辞したものといわざるをえない。そのことは、後になって、講和条約が発効し、社会情勢が安定した後になっても、原告が何らの不服申立の途も講じようとせず、その後一〇余年を経過して世間の誤解に直面し、はじめて右処分の無効を主張しはじめた事実からも容易に推認しうるところである。そうであるから、右処分の効力について判断するまでもなく、原告が以後長野市警察の職員たる地位を有しないことは明らかであって、その存在を主張する原告の本訴請求は理由がない。
 〔中略〕
 長野市警察およびそれを承継した長野県警察においても、原告が退職したものと確信し、その後今日までの間両者を含む社会一般において、同人の退職を前提とする社会秩序が安定をみるに至ったことはこれを推認するに難くない。そうであるから、たとえその後に至って思わぬ事態に直面し、誤解や不利益を受けたとしても、そのような誤解を拭い去る目的から、あらためて以前の処分の効力を云為し、再び自己が警部補たる身分を有すると主張することは、信義則に反し許されないといわなければならない。
 よって、原告の本訴請求は、さらに右処分の無効事由について判断するまでもなく失当であって、棄却さるべきものである。