ID番号 | : | 05429 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 杵島炭砿事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 賞罰委員会の諮問を経ないでなされた懲戒解雇につき、会社があらかじめ組合と交渉を重ね、賞罰委員会にはかるより直接的な被解雇者の利益保護の措置を経ているとして、無効とはいえないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1965年12月7日 |
裁判所名 | : | 佐賀地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和36年 (ヨ) 60 |
裁判結果 | : | 申請却下 |
出典 | : | 労働民例集16巻6号1009頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕 申請人は本件解雇は些細な就業規則違反、又は被申請人に挑発された行為を理由とするものであるから解雇権の濫用であると主張するが、前示就業規則違反の成否の判断においては、解雇が最も重い懲戒であることを考慮し、程度の重大な企業秩序違反のみが解雇に相当するものとの基準によつて申請人の行為を評価したものであつて、かかる基準を以つてしてもなお、申請人の行為は懲戒解雇に相当する就業規則違反に該るのであるから、申請人のこの主張は理由がない。 次に解雇手続の違反について考えるに、就業規則第六六条には「懲戒処分は必要に応じ砿業所長、賞罰委員会に諮つて行う。但し労働基準法第二〇条第三項の認定があつた場合はこの限りでない」、同第六九条には「賞罰委員会に関する規定は別に定める」と定められており、被申請人が本件解雇において、賞罰委員会に諮る手続をしなかつたこと、本件解雇において労働基準法第二〇条第三項の認定がなかつたことはいずれも当事者間に争のない事実である。そこでかかる懲戒手続規定に違反した解雇の効力を考えるに、〔中略〕 この賞罰委員会は労使双方の委員をもつて構成さるべく予定されていたことが認められるが、このように解雇に際して、被解雇者の属する労働組合の何らかの関与の機会が認められるのは、解雇に関して労働者の利益のために、使用者に資料を提供し、かつ意見を述べて使用者の決定に参与する機会を与えて、労働者の地位と利益を守ることを目的とするものであるから、この趣旨からすると、就業規則第六六条には「必要に応じ」とあるけれども、これは砿業所長が賞罰委員会に諮るか否かの決定権を有することを定めたものではなく、賞罰(ことに罰)に処する場合には、同条但書の場合を除いて、必ず賞罰委員会に諮るべきものであつて、たゞ賞罰員委会を常置機関とせず、賞罰の必要が生じたときに構成すべきものとする趣旨に解すべきである。 しかしながら、解雇決定に対する労働組合の関与保障の程度は、就業規則や労働協約の定めの内容によつて強弱があり、例えばいわゆる同意約款があるような場合には、その関与保障の程度は最も強く、これに反する解雇は効力を有しないものであるが、本件解雇の場合、その関与保障の程度は「賞罰委員会に諮つて行う」とあり、この文言および、この解雇に対する制限が労使間の協約としてではなく、単に使用者が一方的に制定するものである就業規則に定められた使用者の自制にすぎないことからすると、この趣旨は賞罰委員会に賞罰の可否を諮問し、その意見を徴して参考にする趣旨であると解されるから、この場合の賞罰委員会はいわゆる諮問機関であつて、賞罰に対する労働組合の関与は、その程度に弱いものとしてしか認められていないのであり、又、本件解雇に際しては、被申請人はあらかじめ労組に解雇申入れをして、これについて交渉を重ね(この事実は前示のとおり当事者間に争がない)、賞罰委員会に諮るよりいわばより直接的な申請人の利益保護の措置を経ているのであるから、就業規則に定める諮問手続を経なかつたからといつて、本件解雇を無効ならしめるものではないと考える。 |