全 情 報

ID番号 05435
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 富士製鉄事件
争点
事案概要  条件付解雇の意思表示と同時に行われた退職の勧告が合意解約の申込みと解しうるとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 合意解約
裁判年月日 1965年12月23日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (オ) 72 
裁判結果 上告棄却
出典 裁判所時報441号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 退職の勧告が条件付解雇の意思表示と同時に行なわれた場合に、その勧告を受けた者がこれに応ずるのは、もしこれに応じなければ一方的に解雇されて、一層不利益を蒙るにいたるという配慮によることがあるとしても、それが強迫に基づく意思表示と認められるなど特別の事情のない限り、勧告に応ずるかどうかの意思決定の自由はもとよりのこと、条件付解雇そのものの違法を争う余地も存する。原判決によれば、本件では、右のような特別の事情を認める証拠がないというのであるから、原判決が本件退職の勧告をもつて合意解約の申込みであり、一方的解雇の通告でないと判断したことは、正当であつて違法はなく、上告論旨は理由がない。
 上告論旨は、また、上告人はいわゆるレツド・パージとして一方的に解雇されたものであることを前提として、原判決が本件解雇の根拠となつた昭和二五年七月一八日付連合国最高司令官マツクアーサー元帥から内閣総理大臣にあてた書簡は超憲法的法規範でないと判示しながら、本件解雇の効力を是認したことは理由不備の違法をおかしたものであると主張する。
 しかし、原判決の確定した事実によれば、上告人は、いわゆるレツド・パージとして一方的に解雇されたのではなくて、被上告人会社の退職の勧告に応じて退職願を提出し、所定の諸手当を異議なく受領したことによるものであることが明らかである。それ故に、上告論旨はその前提を欠くものであり、原判決が連合国最高司令官の前記書簡の趣旨に基づく一方的解雇の効力について論及することなく、本件退職の勧告を無効とする事由の主張、立証がないから、本件合意解約の効力を是認するほかないと判断したことは、相当であつて違法はない。