全 情 報

ID番号 05437
事件名 雇用関係不存在確認等請求事件
いわゆる事件名 第一法規事件
争点
事案概要  転勤命令拒否を理由とする休職処分がなされたが、強行出社をし社内の秩序を乱したとしてなされた諭旨解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1965年12月28日
裁判所名 長野地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ワ) 68 
昭和38年 (ワ) 17 
裁判結果 本訴認容,反訴棄却
出典 労働民例集16巻6号1233頁/時報462号51頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 (二) そこで、右認定事実により、まず右解雇処分が解雇権の乱用として無効であるか否かについて検討する。
1 まず本件転勤命令が人事権の乱用として無効であるかどうかについて審案するに、〔中略〕労働協約第五条には「組合は、事業運営に関する計画の立案実施、職制機構の制定改廃は勿論、従業員の指揮統制・雇傭・解雇・異動・任免・賞罰等の人事権を含む事業経営権は、会社にあることを確認する。」就業規則第六六条には「会社は、業務の都合で社員に転勤を命ずることがある。前項の場合に、社員は、正当の理由がなければ、これを拒むことができない。」との定めがあることが認められ、この条項の趣旨からすると、経営上の必要があれば、職員に転勤を命じうる人事権を会社が専有することは明らかであるが、その前後の規定の趣旨からしても、人事権はこれを正当に行使すべく乱用にわたつてはならないことはいうまでもない。
 しかるところ、前記認定にかかる会社の業種・営業形態・職員採用の状況などから考えると、会社において職員の転勤は不可避のものであり、しかも本件転勤命令当時地方自治団体から人事例規、会計例規、市町村例規(いずれも加除式)の発注が増加し、これに対処するため、とくに北海道・東北・関西の各支社からその営業担当社員として編集経験者の配属をつよく要請されていた事情を考えあわせると、被告を東北支社営業課へ転勤させるについての会社の業務上の必要性が相当大きかつたものと認めなければならない。そして、前記認定事実によると、被告はその選考条件にかなつた適任者の一人であつたことが認められる。
 被告はこの点につき、同人の家庭事情をいうが会社が当時転勤を命ずるにあたつてあらかじめ当該社員の了解を求めた上で発令する取扱をしていたことを認めるに足りる証拠はなく、〔中略〕被告の家族は、父A(五八才)、母B(五一才)、祖母C(八二才)、弟D(一八才)、妹E(二三才)、F(一五才)の七人家族(外に東京で別居中の兄弟二人)であつて、家屋敷のほか田約三反歩、畑約二反歩を有して農業を営むところ、当時父は高血圧症の上交通事故による骨折のため、母は口内炎のためにいずれも加療中であり、祖母も老衰のため病臥中であつて、両親が被告を相談相手として頼りにしてその転勤に反対していた事情を窺いえられるが、一方右証拠からは父Aは右疾病を有しながらも、農作業に従事しながら長年訴外G株式会社に勤務して収入を得ており、たまたま当時交通事故のため家庭で加療中であつたにすぎないこと、母Bも虚弱ではあつても家事の外農作業にも従事していること、妹EはH株式会社に勤務中であり、弟DはI高校を卒業後国立J大学を受験すべく勉強中であり、妹FはK市立高校に在学中であることが認められるのであつて、被告が会社に勤務するかたわら農作業に従事していたことがあるとしても、前記家族構成から考えると、とくに家庭において被告の労力を不可欠とする事情は窺えないし、〔中略〕会社は転勤先の仙台において一月金三、〇〇〇円程度の費用で生活できる寮舎を完備し、その上地域手当金八〇〇円が加算されるというのであるから、被告の意思次第で相当程度家庭に送金することが可能である。そして会社は今後家庭に不測の事態が生じたときには責任をもつて援助と便宜を与える用意があることを被告に約束している事情に徴すれば、本件転勤命令に当つては被告の家庭事情をも充分配慮されているものというべく、前記会社における配転の必要を考えるとこれをもつて人事権の乱用であるとすることはできない。
 もつとも、本件転勤命令が被告に内示された三日後である六月二九日に開催された部課長会議に課長補佐である組合三役が出席したことは当事者間に争がないところ、被告は右席上会社がとくに組合三役に対し、本件転勤命令を強行すべく協力を約させた旨主張し、〔中略〕右会議の席上、会社側から人事管理権の重要性を強調し、ついで開かれた月例集会において、長野本社の社員全員に対し、人事管理についての会社の方針を説示し、団体生活の統制に背くものは許すことができない旨の発言がなされたことが認められるが、これをもつて直ちに被告に対し右転勤を強制する趣旨でなされたものとすることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 以上説示のとおりであるから、本件転勤命令が人事権を乱用したものであると解することはできない。
 2 右にみたように本件転勤命令が人事権の乱用と解することができない以上、被告はこれに従う義務があり、右命令に反したことを理由として就業規則に則り、発せられた前記休職処分および入社禁止処分はいずれもやむを得ない措置として有効であり、これらに違反してなされた前記認定の被告の所為が原告の援用する就業規則所定の懲戒事由にあたることは明らかである。そして、前記認定の諸般の事情を考えると、ほかに特段の事情が認められない限り、本件論旨退職処分が解雇権の乱用として無効であると解することはできない。