全 情 報

ID番号 05440
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 扇城自動車(坂井)事件
争点
事案概要  タクシー運転手がタクシー・メーターを倒さずに乗客を乗せ、会社に損害を与えたとして懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 解雇(民事) / 解雇手続 / 解雇理由の明示
裁判年月日 1988年8月19日
裁判所名 大分地中津支
裁判形式 決定
事件番号 昭和62年 (ヨ) 7 
裁判結果 申請認容
出典 労働判例541号129頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇手続-解雇理由の明示〕
 昭和六一年四月二一日の一七時五八分から一八時九分までの運行及び一八時二八分から一八時三七分までの運行は同一客の運行であって、その正規の料金は待時間料金まで含めて二二五〇円であったにもかかわらず、債権者は料金メーターを遅く倒すか早く起こすなどの方法で八一〇円の料金しか客から収受しなかった事実(疎乙第一〇号証の一ないし三)並びにその理由は、この客が、債権者の母親の近所に住む人であって、債権者の母親が病気となり債権者の姉方に引き取られていたとき、債権者の母を見舞うために客の自宅から債権者の姉方なで往復乗車した客であった事実及び債権者はその客から知らされて始めて母の病気を知ることができた事実(債権者は、その客の運行を済ませた後、直ちに早退して母の見舞に行った。)(昭和六二年五月一一日付債権者準備書面添付の比較一覧表の昭和六一年四月二一日分、昭和六三年二月二五日付債権者準備書面)が認められる。
 右事実は、債権者が私情に駆られて客から収受すべき料金うち一四四〇円分を債務者に無断で収受せず、もって同額の損害を債務者に与えたことになるが、右のような事情の下において右の程度の損害を与えた場合、この事実のみをもって懲戒解雇をすることは、その余の点(債務者が、全従業員に対し、いわゆる料金面でのサービスをどの程度承認ないし黙認していたか、本件労働契約関係において債務者側に非難されるべき行為がなかったかなど。)について検討するまでもなく、懲戒権の濫用であって許されないものと解する。