全 情 報

ID番号 05445
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 東洋シート事件
争点
事案概要  休職期間満了にともなう職場復帰が可能か否かについて、使用者が具体的に主張立証する必要があるとして、本件では復職可能とされた事例。
 業務外の自動車事故により休職中の従業員が復職を申し出た際に、課長らが帰宅させようとする際に傷害を負わせ、その治療のために当初の休職期間が到来したときは、その期間の満了によって退職の効果が発するものではないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項
体系項目 休職 / 休職の終了・満了
休職 / 傷病休職
裁判年月日 1990年2月19日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 596 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 タイムズ757号177頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休職-傷病休職〕
 (1) 〔中略〕 被告会社の就業規則上、業務外の傷病により欠勤し、三か月を経過しても治癒しないときは休職となり、右の場合における休職期間は六か月であること、休業期間満了前に休職理由が消滅したときは直ちに復職させること、復職することなく休業期間が満了となった場合は自然退職となる扱いであることが認められる。
 ところで、右のような自然退職の扱いは、休業期間満了時になお休職事由が消滅していない場合に、期間満了によって当然に復職したと解したうえで改めて使用者が当該従業員を解雇するという迂遠な手続を回避するものとして合理性を有するものではあるが、一方、休業期間満了前に従業員が自己の傷病が治癒したとして復職を申し出たのに対し、使用者側ではその治癒がいまだ十分でないとして復職を拒否し、結局休業期間満了による自然退職に従業員を追い込むことになる恐れなしとせず、したがって、自然退職扱いの合理性の範囲を逸脱し、使用者の有する解雇権の行使を実質的に容易にする結果を招来することのないように配慮することが必要であり、このことは、本来病気休職制度が、傷病により労務の履行が不能となった労働者に対する使用者の解雇権の行使を一定期間制限して、労働者の権利を保護しようとする制度であることを考えると、けだし当然であるというべきである。
 したがって、当該従業員が前職場に復帰できると使用者において判断しない限り、復職させる義務を使用者が負担するものではなく、休業期間の満了により自動的に退職の効果が発生すると解することは、復職を申し出る従業員に対し、客観的に前職場に復帰できるまでに傷病が治癒したことの立証責任を負担させる結果になり、休職中の従業員の復職を実際上困難にする恐れが多分にあって相当でなく、使用者において当該従業員が復職することを認めることができない事由を具体的に主張立証する必要があるものと解するのが相当である(なお、被告Yを除くその余の被告らは、使用者の労働者に対する安全配慮義務を理由に、被告会社には復職の判断を慎重にすべき義務があるとも主張するようであるが、本来右安全配慮義務とは、就労の提供が可能である労働者が労務に服する過程で生命及び健康等を害しないよう労務場所・機械その他の環境につき配慮すべき義務をいうのであって、安全配慮義務の名のもとに復職の機会を事実上制限することは許されないものというほかなく、右主張は失当である)。
 (2) これを本件について具体的にみるに、原告の休職期間満了日は昭和五八年五月七日であり、原告は、同年二月二二日、被告会社に対し、同年三月一日から就労可能であり、ある程度の準備期間として軽作業から始めて漸次普通勤務に移行することにすれば、一か月後の同年四月頃には前職場復帰が可能である旨の診断書を添付して、復職希望年月日を同年三月一日とする復職願いを提出したところ、被告会社が原告の復職申出を認めなかった理由は、前記二1(三)に認定のとおりであるから、以下順次検討することにする。
 (3) まず、被告会社の場合、休職後軽作業であれば就労可能との診断書に基づき復職願いが提出され、これが認められたという例がなく、前職場復帰可能であることが復職の原則であったとの点については、
 〔中略〕
 被告会社が前職場復帰可能であることを復職の原則としていたことは、原告の復職を認めない理由とはなりえないものというべきである。
 (4) また、原告が従事していたスポット溶接の仕事は終日立ち作業であり、原告の復職申出当時、第一、第二製造課を通じて座り作業はなく、第二製造課の溶接職場では軽作業の専従者はいなかったとの点については、
 〔中略〕
 被告会社の職場環境を前提としても、原告の軽作業による復職を認めない理由としては、不十分である。
 (5) 次に、原告の受傷が重大であったうえ、再入院の経過があり、提出された診断書には前職場復帰が可能となるのは昭和五八年四月頃であると記載されていたため、被告会社としては原告の症状が確実には治癒していないものと判断したとの点については、
 〔中略〕
 原告の前職場での通常勤務復帰のみを前提とする被告会社の右判断を是認することはできない。
 (6) 最後に、溶接職場では騒音が高く、フォークリフトが頻繁に走行するため、原告が復職した場合、立ち眩み等の症状が発現することが予想され、危険性があると判断したとの点については、
 〔中略〕
 そうすると、被告会社が原告の昭和五八年三月一日からの復職を認めなかった措置は、これを合理的な理由に基づくものとして是認することはできないものというほかなく、結局のところ、同月四日における被告ら三人の行為を正当化することはできない。
〔休職-休職の終了・満了〕
  1 原告の昭和五八年五月七日付退職の成否
  (一) 被告会社の就業規則上、業務外の傷病により欠勤し、三か月を経過しても治癒しないときは休職となり、右の場合における休職期間は六か月であること、休職期間満了前に休職理由が消滅したときは直ちに復職させること、復職することなく休業期間が満了となった場合は自然退職となる扱いであることは、前記二3(二)(1)に認定のとおりであり、被告会社が、休職期間満了により原告は昭和五八年五月七日をもって退職(自然退職)したとして、同月二日付書面によりその旨を通知したことは、被告会社自ら自認するところである。
 なお、原告は、被告会社が同月二日付書面により、原告に対し同月七日休職期間満了による解雇を通知したとして、解雇の無効を主張するが、原告の通知は、右のとおり自然退職の通知であるというべきところ、就業規則上のかかる自然退職の扱いも、合理性を有するものとして許容されることは前記二3(二)(1)に認定のとおりであるから、以下、原告が同月七日をもって休業期間満了により自然退職したとする被告会社の取扱いの当否について検討することにする。
  (二) ところで、原告の同年二月二二日付復職申出を被告会社が認めなかった措置を是認することができないこと前記二3(二)に認定のとおりであるから、仮に第二の不法行為が発生しなかった場合、原告の復職を認めないままに同年五月七日が到来したとしても、被告会社が休職期間満了による自然退職の効果を主張することはできなかったものというべきである。
 そして、第二の不法行為が、原告の復職申出を認めない被告会社の方針に基づいて、原告の就労を拒否しようとした被告会社の管理職である被告ら三人によって惹起されたことは、前記認定のとおりであるから、右不法行為による受傷の結果、結局休業のまま当初の休業期間である右五月七日が到来したことは明らかであるものの、被告会社が原告の休業期間満了による自然退職の効果を主張することはできないものと解するのが相当である。
 したがって、被告会社の原告に対する右自然退職の取扱いは無効であるというほかなく、原告は同年一一月二〇日をもって定年退職したものと認めるのが相当である。