全 情 報

ID番号 05456
事件名 意思表示の効力停止仮処分申請事件
いわゆる事件名 フジタ工業事件
争点
事案概要  職員の定年を六〇歳としつつ、現業者(支店長採用者)の定年を五五歳とすることについて、右取扱いは公序に反しないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
高年齢者の雇用の安定等に関する法律4条
労働組合法17条
民法90条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働契約と労働協約
退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1990年7月10日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 決定
事件番号 平成1年 (ヨ) 1164 
裁判結果 申請却下
出典 労経速報1399号3頁/労働判例569号55頁
審級関係
評釈論文 ・季刊労働法158号189~190頁1991年2月/森戸英幸・ジュリスト997号101~103頁1992年3月15日
判決理由 〔退職-定年・再雇用〕
 申請の理由2(四)(1)について
 職員の停年年齢が満六〇歳であることは当事者間に争いがなく、職員の停年年齢と名古屋支店支採者のそれとの間に五歳の格差が認められるが、労働基準法三条にいう社会的身分とは、生来の身分を意味するのであって、雇用契約の内容上の差異から設定される契約上の地位は社会的身分に含まれないから、職員と支採者との間の停年年齢の差異は、同条に違反するものではない。
 次に、本件就業規則中の停年条項が、均等待遇という公序に反し、民法九〇条により無効といえるかどうかについて検討するに、被申請人は、職員と支採者との間には種々の差異があると主張するところ、〔中略〕以下の事実を認めることができる。職員は、本社において筆記試験・適性検査・役員面接等の審査を経て社長決裁により採用され、人事・労務・総務・営業・企画・開発・経理・財務・建築・土木・海外勤務等各種の職務を担当遂行するよう求められ、国内国外を問わず、転勤・出向を命じられた場合には、正当な理由なく拒むことができず、給与については職務給職能給が導入され、資格・役職に応じて給与が支給されている。一方、支採者は、支店各部の管理職面接のみで支店長決裁により採用され、職員の指揮下で主に補助的業務を遂行している。申請人に関していえば、作業所において、作業員の危険な行動を注意したり、場内の片付け、作業日誌作成等の安全管理業務の一部を行っていたものである。また、支採者には支店管轄地域内の異動しか行われず、給与は年齢給が主体となる。
 右事実によれば、職員と支採者とでは、採用方法も異なり、職務内容も相当に異なるのであるから、停年年齢に差異を設けたことをもって、均等待遇という公序に反するとまではいえない。また、昭和六一年に改正施行された高年齢者等の雇用の安定等に関する法律四条は、事業主に努力義務を課したものにすぎず、五五歳という停年年齢を定めていることが直ちに公序に反するとは認められない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働契約と労働協約〕
 申請の理由2(五)について
 昭和四八年一一月ころ、被申請人とA労働組合との間で職員と業務員の停年を六〇歳とする労働協約が締結されたことについては当事者間に争いがないところ、〔中略〕右協約締結当時の名古屋支店の全従業員六三六名中、六〇歳停年の適用のある職員組合の組合員は三三五名であり、その適用率は約五二・七パーセントであったこと、申請人の停年退職日の直近である平成元年一一月一五日時点においても、名古屋支店全従業員三四八名中、六〇歳停年を適用される者は一八九名であり、その適用率は約五四・三パーセントであったことが認められ、労働組合法一七条の定める「四分の三以上」という要件を充たしていない、また、同条により労働協約の拡張適用を受けるのは、既にその適用を受けている労働者と同種の労働者である必要があるところ、職員と支採者とでは、採用方法及び職務内容等が異なること、労働組合も別に組織されていることは先に認定したとおりであるから、両者を同種の労働者ということはできない。したがって、2(五)の主張も理由がない。