ID番号 | : | 05459 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 三菱重工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 通勤のための住所を偽り、通勤費を騙取していたこと等を理由とする懲戒解雇につき、権利濫用にあたるとして無効とされた事例。 通勤のための住所を偽り、通勤費を騙取していたこと等を理由とする普通解雇が有効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為 |
裁判年月日 | : | 1990年7月27日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和62年 (ワ) 13938 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却 |
出典 | : | 労働判例568号61頁/労経速報1404号21頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 本件において懲戒解雇事由に該当する前記各行為は、長期間にわたり被告を欺罔して不正に利益、特例扱いを受けていたものであり、また、原告は、右各行為が被告に判明してから、前記のとおり総務部長田邊との面談の際問いただされたにもかかわらず、自分本位の主張を繰り返して一向に改めようとしなかったものであって、反省の態度がうかがわれない。 しかしながら、原告が右アパートを借りて使用していたのは、老父の世話をするため練馬区の自宅を離れてしまうことが困難であったこともその一因であったこと、支給を受けた国鉄の定期は自宅に戻るときには使用し、バス定期代は全額使用してはいないが、これを上回る額のアパート代を支払っていたこと、原告は前記のとおり懲戒解雇に付されるまでの二四年の勤務期間中全く処分歴がないこと等を考慮すると、企業秩序違反に対する制裁である懲戒処分としては、懲戒解雇を選択したことは重きに失し、客観的合理性を欠き、社会通念上相当性を欠くものとして、無効といわざるをえない。 〔解雇-解雇事由-不正行為〕 1 被告は、前記懲戒解雇の意思表示と同時に普通解雇に付する旨の意思表示をしたものであると主張する。 (証拠略)同年一〇月一日、被告は、労働組合側から原告に退職金が支給されるようにしてほしいとの要請をうけて、原告を諭旨解雇にするつもりであったが、原告が速やかに回答しなかったので、結局発令されなかったこと、被告は本件解雇の際除外認定の申請をせず、予告手当の提供をしていることが認められる。 しかしながら、(証拠略)原告の前記就業規則違反の行為が発覚後、被告は、懲戒委員会において懲戒処分についてのみ検討してきたものであり、原告に交付された書面には懲戒解雇に処すとして懲戒処分についての前記就業規則七二条のみが記載されていることが認められ、懲戒解雇であっても、解雇の予告が必要な場合もあるから、懲戒解雇において解雇予告手当が提供されたからといって、普通解雇の意思表示があったとすることはできない。また、 〔中略〕 被告において、諭旨解雇は、懲戒解雇に該当する場合に情状により選択しうる処分で、退職金が支給されることが定められてはいるが、その額は事情せん議のうえ支給されるとされており、やはり懲戒処分の一種というしかないから、諭旨解雇は付する用意があったからといって、前記懲戒解雇の意思表示がなされた際同時に普通解雇の意思表示もなされたと認めることはできない。 被告は、右懲戒解雇は、懲戒解雇の呼称の下になされた普通解雇として、その効力を認めるべきである旨の主張もしているが、懲戒解雇と普通解雇とはその根拠を異にするものであり、被告においても懲戒解雇と普通解雇は就業規則上別個に規定がなされているし、前記認定の懲戒解雇にいたる経緯、解雇通知書の記載等によれば、前記懲戒解雇の意思表示が普通解雇の意思表示としてその効力が認められるものと解することはできない。 2 被告は、昭和六二年一〇月七日付け書面で、昭和六一年九月三〇日の解雇の意思表示が無効のときは予備的に普通解雇する旨の意思表示をし、右書面は同月八日原告に到達したことは、当事者間に争いがない。 原告の前記各行為は普通解雇について規定した就業規則七三条一号、五号に該当する。そして、被告が即時解雇に固執するとは認められないから、右意思表示到達の日から三〇日後の同年一一月七日の経過をもって原告と被告との雇用関係は終了したことになる。 七 普通解雇権の濫用について 原告は、原告を普通解雇に付することは、解雇権の濫用であると主張する。 しかしながら、原告は勤労意欲に乏しく、執務成績も劣り、日常的に職場の同僚に不快感を与える行動を繰り返していたところ、通常の通勤経路を偽り通勤費相当額の金員等を騙取し、また、虚偽の申告をして、特例扱いを受けて出勤時間を遅らせ、かつ残業手当を受給していたなどの前記三の各事情を総合考慮すると、被告が原告を解雇に付して、その雇用関係を終了させたことが客観的合理性を欠き、社会通念上相当でないとは認められないから、右普通解雇は無効となるものではない。 |