全 情 報

ID番号 05471
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 全国電気通信労働組合
争点
事案概要  病気休職期間満了による労働組合書記に対する解雇につき、頚肩腕症候群の業務起因性が否定され、解雇が有効とされた事例。
 事務作業等に従事していた労働組合書記の罹患した頚肩腕症候群につき、安全配慮義務違反はないとされた事例。
参照法条 労働基準法19条
労働基準法2章
民法1条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
休職 / 傷病休職
解雇(民事) / 解雇制限(労基法19条) / 休業の意義
裁判年月日 1990年9月19日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ワ) 4169 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報1374号114頁/タイムズ759号205頁/労働判例568号6頁/労経速報1411号5頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇制限(労基法19条)-休業の意義〕
 昭和五〇年六月ころ港支部書記局の共済事務を担当していたA書記が頚腕症に罹患しているが、同人の頚腕症が業務に起因するものであるか否かは不明である。
 〔中略〕
 原告の業務及び職場環境がその頚腕症の相対的に有力な原因であったとまで認定することはできず、職場環境中冷暖房に前記のような問題があったこと、さらには、A書記の発症の事実を考慮しても、なおこの判断を左右することはできないといわざるを得ない。したがって、原告の頚腕症と業務との間に相当因果関係は認められないというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 次に安全配慮義務違反ないし不法行為に基づく被告の責任について判断する。
 右に説示したとおり、原告の頚腕症の発症と業務との間に相当因果関係を認めることはできないから、原告の頚腕症の発症自体につき原告に安全配慮義務違反があるということはできず、不法行為上の責任も認められない。
 〔中略〕
 原告は昭和五〇年七月、頚腕症となったA書記の休業に伴い共済の仕事を命ぜられ、同四九年九月以来冷房から離れた席に移っていたのに再度冷房のそばの席に移されたことが認められるが、共済事務の内容が、過重な業務とはいえないことは前記のとおりであるし、冷房についても、同五〇年夏には多少弱められて室温が二四度前後であったことが認められるから、右の被告の措置についても被告に安全配慮義務違反があるとまではいえず、不法行為も成立しないというべきである。〔休職-傷病休職〕
 病気休職及び解雇の無効の主張について
 原告は、原告の疾病を業務外とする認定について、被告が医師の意見を徴する等の調査をしていないことを主張するが、仮に右認定の際にそのような手続を要するとしても、原告の頚腕症が業務に起因するものと認められないことは前記説示のとおりであるから、右手続をとらなかったことが、本件休職及び解雇の効力に影響を及ぼすとまで解することはできない。
 さらに、原告は、本件休職の休職事由が不明確であり、休職期間も一定の期間を区切って定めるべきであるのに「原告の休職事由が消滅するまで」としたのは漠然としていて許されないと主張するが、原告の休職事由が原告の頚腕症等の疾病であることは明らかであり、休職期間の定めについても、一定期間を区切らなければならないとする根拠はなく、右のような定め方でも休職者が復職を希望するときには自ら被告に請求すれば足りることであるから、不都合があるとは解されない。したがって、この点も本件休職及び解雇の効力に影響を及ぼさないと解すべきである。
 また、原告は、本件休職の通知が原告に到達していないと主張し、確かに原告に対し本件休職の通知が到達したことを認めるに足りる証拠はないが、服務規定二三条一項は「病気休暇の期間を経過してもその故障が消滅しないときは病気休職となる。」としており、その明文上病気休暇から病気休職への移行については特段の意思表示を要しないものと解されるから、通知の有無は病気休職の効力に影響を及ぼさないというべきである。もっとも、細則十四1(1)は休職につき発令を要するとしているが、右の述べたところからすれば発令は既に病気休職の効力が発生した旨を伝達する意味を有するに過ぎず、右規定は発令の通知を効力発生要件としたものではないと解される。
 〔中略〕
 原告も休職発令後間もなく、その事実を知ったと推認でき、かかる事情のもとでは通知の不存在は本件休職の効力に影響を及ぼさないと解される。
 〔中略〕
 原告は、被告が原告の頚腕症の業務起因性を否定して休職扱いにするのは犠牲者扶助規定を適用した事例と比較すると、不公平かつ恣意的な取扱いであると主張するが、
 〔中略〕
 犠牲者扶助制度は服務規程六三条において組合員が組合業務遂行のためうけた弾圧及び災害に対処するため犠牲者扶助資金を積み立て、具体的支払は犠牲者扶助規程に基づいて行われていることが認められるのであって、右規程に基づき現実の運用上必ずしも厳密には業務起因性が認められるとはいい難い事例についても支払が行われているとしても、そのことと本件のように病気休職扱いとする場合とで取扱いが一致しなければならないと解すべき根拠はないから、原告の右主張は失当である。
 原告は、被告が原告の復職申出に対し、当初軽減勤務の制度が存在することを当然の前提としながら、その後軽減勤務の存在を否定し完全に回復しなければ復職を認めないとし、受診要求の根拠規定が変化する等、被告の復職拒否の理由が変遷したことを解雇の無効事由の一つとする。しかし、前記認定事実によれば、受診要求の根拠規定の説明が当初行われず、その後の根拠規定の説明も変化したことはあるが、被告は、原告に対し就労可能な程度に回復したかどうかを確かめるために医師の受診を求める旨一貫して原告に説明しており、軽減勤務の存在を否定したこと及び完全に回復しなければ復職させないと述べたことを認めるに足りる証拠はない。もっとも、
 〔中略〕
 被告は本件訴訟について報告した支部大会経過報告書において、
 〔中略〕
 右文書にいう「治癒」とは、被告が原告に説明したとおり、就労可能な程度に回復したことを言うのであって、完全に回復したことをさすのではないと解される。したがって、被告において、原告に対する説明が必ずしも十分とはいえなかったきらいはあるが、被告の復職拒否の理由が変遷したとまでいうことはできず、原告の右主張は失当である。
 次に、原告は、本件協約が休職の発令及び復職の両者について健康管理医の認定を要求しているのに、被告は復職の場合にのみその手続を要求し、原告が右協約に定められているとおり診断書を提出しても受取りを拒んだことを非難するが、前記認定の復職に関する交渉の経過に照らせば、原告主張の事実は解雇の効力を左右するものではないというべきである。
 原告は、休職事由消滅の判断を健康管理医が行うとしても、前記協約六条四項は右判断を医師の診断書に基づき行う旨規定しているから、被告は、原告が提出した診断書を健康管理医に提示して意見を求めなければならないのに、右意見聴取を昭和五三年に至るまで行っていないと主張する。
 〔中略〕
 被告が原告提出の診断書を健康管理医であるB医師及びC医師に見せて意見を聴取したのは、確かに昭和五三年に入ってからであるが、被告は、原告が従前、頚腕症により病気休暇を繰り返していたため、
 〔中略〕
 原告が右意見聴取手続を当初行っていなかったからといって、本件解雇の効力には影響しないと解すべきである。
 原告は、本件解雇につき、服務規程の定める当該執行委員会の発議及び中央委員会の議決の手続を履践していない瑕疵があると主張し、原告の解雇の決定に関する被告内部の手続の具体的経過を示す証拠はない。しかし、
 〔中略〕
 被告の中央執行委員会が原告の解雇を決定したことが認められ、
 〔中略〕
 仮に正式な発議という形式がとられていなくとも、それは本件解雇を不当とする瑕疵ではないと解される。
 〔中略〕
 そうすると、病気休職及び解雇が無効である旨の原告の主張は理由がない。