全 情 報

ID番号 05478
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本タクシー事件
争点
事案概要  暴行事件、顧客への接客態度等を理由とするタクシー会社従業員に対する解雇が有効とされた事例。
 労働協約に経営協議会との解雇協議事項が存する場合でも、労働組合の執行委員会が解雇を承認しているときは、解雇を無効としないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法16条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 暴力・暴行・暴言
解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項
裁判年月日 1990年10月1日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成2年 (ヨ) 1758 
裁判結果 申請却下
出典 労働判例572号68頁/労経速報1417号17頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-暴力・暴行〕
 (一)申請人は、暴行の事実やその経緯、顧客との電話の応対について前記二の事実に反する主張をしているが、これらの主張は、被申請人提出の疎明資料(被申請人会社従業員ら作成の各報告書など)の記載内容にことごとく反するばかりか、暴行の点に関しては、申請人自身の作成にかかる報告書(〈証拠略〉)の記載内容にも副わないものであって、到底採用することができない。
 (二)申請人は、被申請人が本件解雇をしたのは申請人との約束違反などの違法行為の発覚をおそれたためである旨を主張している。
 しかし、本件において、被申請人が申請人主張のように職種変更の約束をしたことや、その他被申請人において違法行為をしたことを疎明するに足りる資料はなく、本件解雇は、前記の理由によりなされたものということができる。
 また、申請人は、被申請人が申請人を解雇する目的で職種の変更をした旨を主張しているが、被申請人がそのような目的を有していたことの疎明はないし、申請人が職種変更を命ぜられた平成二年五月二日又はそれ以前に申請人から難聴であるという話が出たことを疎明するに足りる資料も存しない。したがって、右主張も理由がない。
 (三)被申請人会社において過去に普通解雇を行った例がないことは前記のとおり当事者間に争いがない。
 しかし、申請人の行為が懲戒解雇事由にも該当することなどにかんがみると、普通解雇の例がないからといって、本件解雇を無効とすることはできない。そして、疎明資料によると、被申請人会社におけるこれまでの事例として、車庫内での車両の駐車場所のことで同僚と口論して同僚の顔面を一回殴打して加療約一週間の傷害を負わせた営業員を懲戒解雇したこと、酒に酔って上司の顔面を三回程度殴打して負傷させた営業員を懲戒解雇したこと、乗客に対して返事をしなかった、乗客に電車の方が早いと言った、こわい感じであったなどの苦情を三回受けた営業員を接客態度不良を理由に懲戒解雇したこと、近距離客のため降車の際差し出されたタクシ-チケットをひったくるように受け取り、礼の言葉も言わなかったとの苦情があった営業員を懲戒解雇したこと、以上の事実が一応認められる。これらの事例をも勘案すると、本件解雇が不当な措置であるということはできない。
 そうすると、前記理由による解雇権濫用の主張も採用することができない。
〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕
 普通解雇をなす場合に、経営協議会において会社と組合が協議決定するものと労働協約で規定されている趣旨は、組合をその手続に関与させ、その意思を反映させることにより、被申請人会社が従業員(組合員)に対して違法又は不当な解雇を行うことを抑止することにあると解される。本件においては、被申請人会社の要請により会社側の決定の翌日経営協議会の組合側の構成員である執行委員が全員集まり、審議した結果、全員一致の意見をもって申請人を普通解雇することを承認したものであり、本件解雇後の定例経営協議会でもそのことが改めて確認された(なお、組合が経営協議会の手続上の瑕疵を問題にしたとの疎明も全く存しない。)ことに徴すると、実質的には経営協議会を開催したに等しいものということができる。もとより労働協約の規定(第八○条など)に従って経営協議会を開催し、その中で審議するのが本来のあるべき姿であることは多言を要しないところであるが、右事情にかんがみると、労働協約所定の手続に則った経営協議会を経なかったという瑕疵は、本件解雇を無効とするほどのものではないというべきである。
 申請人は、この点に関し、執行委員会は決議機関ではないと主張しているが、執行委員会の決議そのものではなく、経営協議会の構成員である執行委員全員が本件解雇を承認したことが重要な点であるから、右主張は当を得ないものといわなければならない。