ID番号 | : | 05479 |
事件名 | : | 地位確認請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | ネッスル事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 工務課電気係長から同一工場内の工務事務所の電気技術員への移籍命令につき、業務上の必要性に基づくもので、移籍にともなう不利益も通常甘受すべき程度のものであり、有効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1990年10月2日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和63年 (ネ) 2126 |
裁判結果 | : | 一部取消,一部却下,控訴一部棄却(上告) |
出典 | : | 労働民例集41巻5号775頁 |
審級関係 | : | 一審/静岡地/昭63. 6. 7/昭和57年(ワ)650号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕 3 右事実によると、島田工場に新しい生産方式が導入され、それにより生産設備が著しく拡大し、電気部門においても業務量が増加したのに伴い、被控訴人が同工場の電気部門を分割し、また前示の新職種を設けたことは、業務量の増加に対処するための相当な措置であり、また、Aを工務課長代理に任命したことについても、同人の前示の職歴からすると特段の疑点はない。 そうすると、本件移籍は、業務上の必要性に基づいて行われたというべきであり、また、前示の職務の内容及び給与の減額の事由及び程度に鑑みると、大幅な労働条件の変更を伴う場合に該当するとも認め難い。なお、控訴人は、本件移籍により監督者手当を失い、また、旅費手当の支給についても一般職員として遇されることになり、不利益を被ったことになる。しかし、監督者手当等は、監督職である係長職にある者に対する特別の手当であり、後示のとおり本件移籍は不当労働行為に該当しないから、右不利益は業務上必要な移籍に伴うものとして控訴人は甘受しなければならない。 また本件移籍は、電気係長の地位が前示のとおり相対的に低下したことを考えると、明らかに降格であるとも認め難く、控訴人は、本件移籍により昇進の機会を失い、新しい知識、技術の取得もできなくなったとも主張するが、右昇進の機会とか知識、技術の取得は、電気係長職の対価ではなく、その業務の執行の際の事実上の反射的利益にすぎないから、仮にこれを失ったからといって、本件移籍に伴う法律上の不利益ということはできない(職能給制度の導入により、控訴人主張の不利益が生ずるとしても、それは本件移籍により直接被ったものとはいえない。)。 4 そこで、本件移籍は不当労働行為に当たり無効であるとの控訴人の再抗弁について検討する。 (一) 前示のとおり控訴人は、本件移籍により監督者手当等を失い、不利益を被ったことになる。 (二) 控訴人が、昭和四九年九月から昭和五○年九月までの間、B労働組合島田支部副委員長、同月から昭和五五年九月まで島田支部委員長兼B労組本部執行委員であったことは当事者間に争いがない。 〔中略〕 次の事実が認められる。 (1) 右組合は被控訴人の従業員により結成された労働組合であるが、昭和四七年ころから賃上げ・労災闘争を通じて同盟罷業を行う等被控訴人との間に対立関係が発生し、被控訴人も労働組合対策を講ずるようになり、昭和五三年以降組合から被控訴人に対する不当労働行為を理由とする労働委員会への救済申立や訴の提起が頻発するようになった。 (2) 昭和五六年ころから労使協調路線を支持し、組合本部執行部に対し批判的な組合員が増加し、同年開催された第一六回全国大会において、本部役員選挙で対立候補を擁して争う姿勢を示すに至った。当時の本部執行部は、被控訴人の介入によるものと反発して被控訴人との闘争を呼び掛け、本部執行部及びそれを支持する組合員との被控訴人の支持を受けた協調路線を支持する組合員との対立も激化していった。 (3) 昭和五七年度の本部役員選挙に際し、本部執行委員長に闘争路線を主張して現職のCが、協調路線を主張してDがそれぞれ立候補したが、本部執行委員長及び全国大会代議員の選出を巡って両派に紛争が生じ、同年一一月ころ事実上分裂し、昭和五八年一月までに両派とも独自の組合活動を行うに至った(以下、闘争路線を支持する派を「第一組合」といい、協調路線を支持する派を「第二組合」という。)。 (4) 島田支部も、昭和五七年度の支部大会の開催を巡って両派に紛争が生じ、それぞれ独自に支部大会を開催して第一組合と第二組合とに分裂した。控訴人は、第一組合に所属し、その組合員の立場で行動してきた。 (三) 右事実によると、控訴人は、昭和五○年九月から昭和五五年九月までの間島田支部委員長の地位にあり、組合の分裂後は被控訴人との闘争を主張する第一組合に所属しているが、組合内部の対立・抗争が顕在化してきた昭和五六年ころには、既に労働組合役員の地位から退いており、また、本件移籍は同一工場内における移籍であるから、控訴人の組合活動についての場所的不便を生じていない。 本件移籍が被控訴会社の組織変更の必要性に伴うものであり、右組合内部及び被控訴人と第一組合との間の抗争における控訴人の役割及び控訴人の組合活動の利便を併せ考えると、特に被控訴人が、控訴人に対する不利益処分をするために組織を変更し、本件移籍を強行したとは認め難いものであり、結局、本件移籍が、控訴人が組合活動をしたことを原因として行われたと認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。 なお、前掲控訴人の供述によると、【1】控訴人が、工場長から昭和五六年一二月一四日、社長の批判はやめるように注意されたこと、【2】昭和五七年一月広田工場への転勤を打診されたことが認められるが、工場長は、社長批判をやめるように注意したにとどまり、また転勤の申入れも控訴人が拒絶すると直ちに撤回されており、これらをもって本件移籍が組合活動によるものであると推認することはできない。 |