ID番号 | : | 05487 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | ダイア管理事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | マンション管理人に対する他のマンションへの転勤命令が権利濫用にあたらず有効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1990年10月22日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成2年 (ヨ) 741 |
裁判結果 | : | 申請却下 |
出典 | : | 労経速報1411号29頁/労働判例579号24頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕 1 申請人・被申請人間の雇用契約において申請人の勤務場所を本件マンションあるいはその周辺地域に限定する合意があるかについて検討するに、明示の右合意をしたと認めるに足る疏明はないが、旧会社は申請人を雇用するにあたって申請人がスナック経営をしていたことを知っており、申請人を雇用した後もその経営を容認していたこと、申請人の給与は勤務時間などに比して比較的低額でスナック兼業によって生活を維持していたこと、名古屋営業所管内では管理員の転勤事例がなかったことなどの事実に照らすと黙示の右合意があったと認められる余地がある。しかし、申請人のような管理員の勤務場所はマンション管理組合と被申請人間の管理委託契約の存するマンションであって同契約が存続・更新されるかは管理組合の意思にかかっていること、そして、その意思は主に管理業務が適正に履行されているか、すなわち、管理員の資質・平常の勤務態度にかかっており、場合によっては管理員を他のマンションに配転させる必要があり得ること、申請人は旧会社の公募に基づいて雇用されたものではなく、申請人の積極的な働きかけが契機になっていたものであるから、旧会社がスナック経営というハンディを負う申請人を雇用するにあたって、企業経営という観点からすると、右経営が申請人の業務に支障を及ぼすのではないかという点に関心があったのであって、それ以上に右経営と勤務場所を関連づけ、勤務場所を限定してまでして申請人を雇用する理由はなかったこと、申請人が雇用された当時、名古屋営業所が受託していたマンションは二○か所あり、更に将来も増える可能性があったこと、名古屋営業所管内で管理員の転勤事例がなかったのは、たまたまその業務上の必要性がなかっただけであったことなどの事実に照らすと、申請人と被申請人との雇用契約において、勤務場所を申請人主張のような場所に限定する黙示の合意があったとは認めることはできず、かえって、業務上の必要性がある場合には、その変更を許容する合意が一応あったというべきで、被申請人は、名古屋営業所の受託するマンションで転居をともなわないマンションに配転を命ずる場合には、申請人の個別的同意がなくてもできると解するのが相当である。 2 なお、被申請人は、本件配転命令の根拠を就業規則のいわゆる配転条項にあると主張するが、A株式会社の就業規則は被申請人の一般従業員に準用されるとしても、更に、申請人のような特殊業務をする管理員に準用されるとするのは適当ではなく、また、管理員就業規則のいわゆる配転予定条項もごく一般的、抽象的な規定にすぎず、これを直接被申請人の配転命令権の根拠とすることは問題があり、しかも、管理員就業規則は申請人雇用後に作成されたもので、右配転条項は勤務場所の変更という労働条件の基本的事項に関するものであるから、たとえそれに合理性があるからといって、申請人にそれを適用するには疑問があるので、被申請人の右主張は採用しない。〔配転・出向・転籍-配転命令権の濫用〕 3 本件配転命令がなされた経緯は前記のとおりで業務上の必要性があると認められる。しかし、それによって申請人の通勤時間が片道一時間五分程増加し、睡眠時間を短縮せざるを得なくなるなど従前の場合に比して、スナックの営業が容易でなくなることは想像に難くないが、申請人の妻の一層の協力及び申請人の自助努力によっては、申請人のスナック経営が不可能になると断定することはできず、その不利益は配転に伴い通常甘受すべき程度のものというべきである。したがって、本件配転命令が権利の濫用にあたるとする申請人の主張は採用しない。 三 よって、本件仮処分申請は理由の疏明がなく、疏明に代わる保証を立てさせることも相当でないから、これを却下する。 |