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ID番号 05495
事件名 雇傭関係存在確認請求控訴事件
いわゆる事件名 進学ゼミナール予備校事件
争点
事案概要  大学予備校の非常勤講師として短期の雇用契約を反覆する形で勤務してきた者が雇止めされ、右取扱いを違法として雇用関係存続確認の請求をした事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1990年11月15日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ネ) 907 
裁判結果 控訴棄却
出典 タイムズ753号118頁
審級関係 一審/05448/京都地/平 2. 3.30/昭和62年(ワ)2415号
評釈論文
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 当裁判所の判断は、控訴人の当審での新たな主張に対するものを除き、原判決の理由一ないし三(原判決一六枚目表一○行目から同二二枚目裏一○行目まで)と同一であるから、これを引用する。但し、次の付加、訂正をする。
 〔中略〕
 2 臨時従業員(臨時工)の期間満了による雇止めの効力の判断にあたっては、当該臨時従業員の従事する仕事の種類、内容、勤務の形態、採用に際しての雇傭契約の期間等についての雇主側の説明、契約更新等の新契約締結の形式的手続の有無、契約更新の回数、同様の地位にある他の労働者の継続雇傭の有無等に鑑み、期間の定めのある雇傭契約があたかも期間の定めのない雇傭契約と実質的に異ならない状態で存在しており、あるいは、そのように認めうるほどの事情はないとしても、少なくとも労働者が期間満了後の雇傭の継続を期待することに合理性が認められる場合には、解雇に関する法理を類推適用すべきであると解するのが相当である。(最判昭和四九年七月二二日民集二八巻五号九二七頁、最判昭和六一年一二月四日裁判集一四九号二○九頁参照)。
 臨時従業員(臨時工)に関する以上の法理は、予備校のいわゆる非常勤講師的な形態で勤務する控訴人が被控訴人と締結した本件雇傭契約にも原則として当てはまることはいうまでもない。
 そこで、以下、この視点に立って判断を進めることにする。
 3 〔中略〕控訴人の主張に沿う事実として以下のことが認められる。そして、これらの事実をもってしても、本件雇傭契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で成立していたものとみることはできないものの、少なくとも、これらの事実は、本件雇傭契約が継続することを控訴人が期待することに合理性があると推認させる事情であるとはいえないことはない。
 ア 本件雇傭契約の期間については、契約の当初に被控訴人から控訴人に対して、必ずしも明確な説明がされておらず(但し、基本的な授業の期間は、二学期の終わりである一二月までで終了するとの説明はあった。)、期間を明確にした契約書も作成されていない。また、一、二月の直前講習や夏季、冬季の特別講習についても、そのつど契約書が作成されるようなことはなく、口頭で契約(講師の申込みとこれに対する指名)が行われていた。
 イ 控訴人、被控訴人間の雇傭契約は、基本的な雇傭の期間である四月から一二月までについてみると二回にわたり更新され、控訴人は、昭和六一年一二月に被控訴人から雇止めの意思表示がされるまで、二年八か月にわたり非常勤講師として勤務した。
 ウ 控訴人は、授業に熱心であり、また副教材の作成等のために、授業時間外にもかなり時間をその準備のために費やしていた。
 エ 被控訴人は、少なくとも、昭和六一年の初めころに控訴人らから労働条件の改善等についての要求がされるまでの間は、控訴人の勤務態度に満足していた。そして、被控訴人は、控訴人が勤務を始めて間もない昭和五九年の六、七月ころ、控訴人に対し、専任講師(被控訴人の予備校に毎日、午前午後を通じて勤務するとの趣旨)としてずっと勤務してはどうかとの申入れをしたこともあった。
 4 〔中略〕本件雇傭契約について、前記の推認を妨げる以下の事情が認められるのである。
 ア 控訴人の勤務形態は、一定時間の授業を週一定のコマ数(昭和五九年度から昭和六一年度までは、各六、七、五コマ)担当するというもので、必ずしも毎日勤務するわけではない。そのうえ、出勤する日も、原則として授業時間にだけ拘束された。そして、その準備等を行う時間や準備の程度は、各講師の自由に委ねられていた。すなわち、控訴人の勤務形態は、いわゆる非常勤の形態であった。
 イ 前記二、3、エに認定した被控訴人からの申入れを控訴人は断った。
 ウ 被控訴人の予備校は、比較的小規模の予備校としての性格上、年度により生徒数の変動が大きく、また生徒の希望等の変化がある関係上、年度ごとに各教科の時間数が変動した。そこで、必要な講師の数も、必然的に変動せざるをえない状況にあった。
 エ 講師の方も、大学院に通学し、あるいは他の塾や予備校にも勤めるなど、かけもちで勤務する者が多かった。そこで、各教科の時間割も、被控訴人側の必要とこうした各講師側の都合との調整によって決定された。
 オ 被控訴人の予備校の講師には、かなり長期間にわたり雇傭されている者より、一年ないし三年程度で退職している者の方が多く、また、再雇傭が当然といった状態にはなかった。すなわち、一年目から二年目に移る者のうち契約を更新されない者も多く、三年目以降の者も、講師側に希望があれば更新する場合が多いが、これも必ずしも確実ではなかった(契約の更新が不確実であり、かつそれが四月の直前まで明らかにならないことについて講師らが不満を持っていたことは、〈証拠〉によって明らかであって、これに反する同結果は採用できない。)。
 カ 被控訴人の予備校を含め、大学受験予備校の教育は、その性格上、本来の教育というよりむしろ大学合格のための準備という性格が強く、その意味で私立の大学、高等学校に比してより企業としての要素が大きい。そこで、京都市では、大手の、あるいは中小規模の予備校が乱立してしのぎを削る状況であった。
 5 まとめ
 4で認定したような事情は、大学受験のための小規模予備校という被控訴人の業態の性格からいわば構造的、必然的に導き出されるものであり、こうした観点からみると、控訴人の勤務について、その勤務形態からみて、本工とほとんど同一の形態で勤務する製造業における臨時工の勤務と同一視できないことはもちろんである。そして、控訴人の勤務は、長期間勤務することを期待して行われる私立大学等の常勤の講師の場合よりも継続性、反面からいえば拘束性の弱いものであり、どちらかといえば、私立大学等の非常勤講師のそれに近いと考えるべきである。とはいっても、控訴人の勤務の拘束性を考えた場合、大学受験のための予備校という被控訴人の業態に考慮が払われるべきであり、このことが、控訴人の勤務が、その拘束性という点からみても、いわゆる臨時工のそれに当てはまらない理由でもある。
 以上の次第で、3に掲げたような事実から、直ちに控訴人が本件雇傭契約が継続すべきものと期待することに合理性がある事情にあったと推認することはできない。