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ID番号 05508
事件名 労働契約存在確認等請求事件
いわゆる事件名 国鉄清算事業団(門司鉄道管理局)事件
争点
事案概要  助役の組合事務所への強制連行、同事務所への拘束、かけつけた駅長に対する退室妨害行為等を理由として二名の国労組合員に対してなされた懲戒免職処分の効力が争われた事例。
参照法条 日本国有鉄道法31条1項
民法536条2項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
裁判年月日 1991年1月29日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (ワ) 227 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例582号52頁
審級関係
評釈論文 石井将・労働法律旬報1263号16~20頁1991年5月10日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 国鉄法三一条一項には、被告(旧国鉄)の職員が同条所定の懲戒事由に該当する場合においては、懲戒権者たる国鉄総裁は、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができると規定されている。懲戒権者が、懲戒事由に当たる具体的行為につきその職員に対し、右のうちどの懲戒処分を選択するかについては、具体的な基準は定められておらず、懲戒事由に該当する所為の外部に表れた態様、その原因、動機、状況、結果、当該職員のその前後における態度、懲戒処分等の処分歴、社会的環境、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等の諸般の事情を総合考慮し、国鉄の企業秩序の維持確保という見地から相当と判断した処分を選択すべきである。そして、右懲戒処分の選択の判断については、懲戒権者に裁量が認められているものと解される。しかし、懲戒権者の処分の選択が、当該行為との対比において甚だしく均等を失する等社会通念に照らして合理性を欠き、右のような限度をこえる場合は、当該懲戒処分は懲戒権者の裁量の範囲を超えるものとして違法となり、その効力を否定されるものと解するのが相当である。しかも、懲戒処分のうち免職処分は、他の処分とは異なり、当該職員の地位を失わしめるという重大な結果を招来するものであるから、免職処分の選択に当たっては、他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要するものである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 このように国鉄当局と国労との労使関係が尖鋭化していた時期であり、原告ら国労の幹部が、A助役の所為を組合監視であると疑い、これに抗議しようとした動機自体には特に非難すべき点はない。次に、A助役に対する前記の強制連行、監禁行為自体は違法ではあるが、強制連行の際に行使した暴力も同人に特に傷害等を加えることを意図した有形力の行使ではなく、同助役の受けたとする傷害も極めて軽微であること、組合事務所における監禁の時間も約三〇分くらいの短時間であり、その間、A助役に対する抗議行為も、特に同人に対し危害を加えるとか、危害を加えるような気勢を示したとかの過激な行為があったことは窺われないこと、その監禁の間に、運輸長室に電話でその旨を連絡しており、同助役の身柄の措置につき、当局と交渉をもつ意思があったことが窺われること、その結果も、特に国鉄の業務に現実に重大な支障を与えたことは認められないことなど、その行為自体の違法性の程度はそれほど強いものとは認め難いこと、前記認定の原告らの処分歴も、原告X1は、戒告一回、訓告四回、原告X2は訓告三回であり、いずれも懲戒処分としては最も軽い処分であって、その内容も殆どは組合活動に参加して業務を欠いたことによるもので、本件のような暴力行為を伴うものは含まれていないこと、前記のとおり、当時、国鉄当局は、職場規律の確立、管理体制の強化の方針のもとに、現場協議制度等、労使間の慣行を変更しようとして国労と激しく対立し、原告ら国労幹部は、当局の行為に極度に神経質になっていたことが窺われ、A助役に対しとった本件行き過ぎた抗議行為もそのことと無関係ではないと考えられることなど、その目的、動機、方法、結果、等の諸事情を総合考慮すると、原告らのとった本件行為に対して、何らかの懲戒処分は免れないとしても、免職処分という最も重い処分をもって臨むのは、社会通念に照らしていささか酷にすぎると評価せざるを得ない。このことは、公共性を有する国鉄の職務が一般私企業の職務に比較して、より厳しい規制がなされる理由があること、前記認定のとおり、当時、国鉄の再建は国家的緊急の課題であり、国鉄の職員に対する職場規律の確立の強い要望があったことなどの事情を考慮したとしても、やはり同様である。したがって、原告らの行為に対する懲戒権の行使に当たり、免職処分を選択したことは、懲戒権者に認められた裁量の範囲を逸脱したものと認めざるをえない。
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 原告らと被告との間に労働契約が存する以上、原告らは被告に対して賃金請求権を有することになる。その間に原告らが労務を提供しなかったのは、被告の責めに帰すべき事由により、労務の提供ができなかったものと認められるから、民法五三六条二項により、原告らは賃金の支払いを受ける権利を失わないと解すべきである。