ID番号 | : | 05517 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 炭研精工事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 採用にあたり、大学中退の学歴を秘匿し、二回の刑事事件につき懲役刑(ただしいずれも執行猶予付き)に処せられたことを隠して採用された労働者に対してなされた懲戒解雇の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動 |
裁判年月日 | : | 1991年2月20日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成2年 (ネ) 897 |
裁判結果 | : | 控訴棄却 |
出典 | : | 労経速報1432号3頁/労働判例592号77頁 |
審級関係 | : | 一審/04874/東京地/平 2. 2.27/昭和62年(ワ)4384号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕 雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うというべきである。就業規則三八条四号もこれを前提とするものと解される。 そして、最終学歴は、右(1)の事情の下では、単に控訴人の労働力評価に関わるだけではなく、被控訴会社の企業秩序の維持にも関係する事項であることは明らかであるから、控訴人は、これについて真実を申告すべき義務を有していたということができる。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-政治活動〕 控訴人が昭和六一年三月一六日公務執行妨害により逮捕され、引き続き同月二七日まで勾留され、そのため同月一七日から二七日まで休日を除き九日間勤務しなかったことは前認定のとおりであり、〔中略〕控訴人は全国日雇労働組合協議会山谷争議団主催のA追悼人民葬集会に参加し、デモ行進中にデモ隊から警察機動隊に対し空ビンや石が投げられたことから、警察機動隊とデモ隊が衝突し、その課程で控訴人は逮捕され、勾留されたことが認められ、前掲B証言及び控訴本人の尋問結果によれば、C労働組合は控訴人の解雇撤回闘争を支援をしておらず、静観していること、前記認定のとおり、被控訴会社が控訴人の経歴を調査して、控訴人は昭和五二年五月の成田空港反対闘争と昭和五三年三月の成田空港開港阻止闘争に参加したことに関連して、有罪の確定判決を受けたことが判明した後、被控訴会社のD総務課長とE総務部長は昭和六一年三月三一日控訴人と会って、「会社に重要なことで申告をしなきゃならんことがあるんじゃないか」と述べたところ、控訴人は、「私は悪いことはしていないんだから、申告する必要はないです。」と答え、さらに、「前科、前歴があるんじゃないのか」という質問に対し、控訴人は「知っているんだったら、言う必要はないじゃないか」と答えたこと、控訴人は右有罪の確定判決を受けた後も成田空港反対闘争に参加してきたこと、以上の事実が認められ、これらの控訴人の言動を見ると、控訴人は自己の行動に対する反省の態度は見受けられず、依然として、自己の主張が正しく、既成の社会秩序を否定する考えが強く残っているといわざるを得ないのである。 これらの事情を考慮すると、控訴人の被控訴会社における地位や職務内容を斟酌しても、なお、控訴人には懲戒解雇の事由があり、これにより被控訴会社が控訴人を懲戒解雇したことは相当であったというべきであるから、懲戒解雇が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したということはできず、解雇権濫用の主張は採用することができない。 |