全 情 報

ID番号 05519
事件名 時間外割増賃金請求事件
いわゆる事件名 三栄珈琲事件
争点
事案概要  会社の経営する喫茶店で一人で勤務していた労働者が、労基法四一条二号の「管理監督者」にあたらないとして、時間外手当を請求した事例。
参照法条 労働基準法41条1項2号
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 管理監督者
労働時間(民事) / 労働時間の概念
裁判年月日 1991年2月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ワ) 1980 
平成1年 (ワ) 7079 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例586号80頁/労経速報1438号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間-労働時間の概念〕
 (1) 労働者が使用者の業務に従事した場合であっても、それが全く使用者の関与なしに労働者の独自の判断で行われた場合にはこれを労基法が規制する労働時間ということはできないと解するのが相当である。
 (2) そこで、これを本件についてみるに、「A店」の営業時間すなわち原告の労働時間は原告自らが決定したものであることは認められる(原告本人)。しかし、そもそも、喫茶店営業という職務の性格からして、その裁量の幅は大きくないうえ、原告が営業時間を決定するについては、被告代表者から、「A店」の収支を赤字にすることがないように、また前任者よりは営業成績を向上させるようにとの指示を受けていたのであり(原告本人)、その指示を実行しようとすれば、営業時間は自ずと長時間にならざるを得ないこと (原告が一日八時間しか労働しないことを前提に「A店」が黒字になるとの営業方法を想定するのは困難である。)、被告は原告から開店時間を何時にするかの報告を受けており、原告がこれを午前七時に繰り上げた際にもこれを了承していること(原告、被告代表者本人)からすると、2で認定した就労時間(「A店」の営業のためになした労働に要した時間)は、それが原告の本務たる活動であることからして、被告の黙示の指示あるいは少なくとも被告の黙認によりなされた労働として、労基法が規制する労働時間となるものと認めるのが相当である。
〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
 労基法四一条二項に定める「監督若しくは管理の地位にある者」とは、同法が規制する労働時間等の枠を越えて活動することが当然とされる程度に企業経営上重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態もその規制になじまないような立場にある者を指すと解されるから、その判断に当たっては、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、自己の勤務について自由裁量の権限を有し、出勤、退勤について厳格な制限を受けない地位にあるか否か等を具体的な勤務実態に即して決すべきである。
 2 そこで、これを本件についてみるに、原告は、パート従業員の採用権限及びこれに対する労務指揮権限を有し、現に自らの判断でBを採用しこれを使用していたこと、売上金の管理を任されていたこと、材料の仕入、メニューの決定についてもその一部を決める権限を与えられていたこと、「A店」の営業時間は原告が決定したものであること、責任手当として月額金一万円を支給されていたことが認められる。〔中略〕
 しかし、他方、原告は、「A店」を欠勤、早退、私用による外出する際には必ず被告に連絡しており無断で店を閉める権限は与えられていなかったこと、原告は、パート従業員の労働条件(労働時間、賃金)を決定したが、これとてもあくまで被告が許容する範囲内でのことであり、被告と一体的立場にたって行ったとまではいえないこと、営業時間についても、実際に原告が独自に決定できる余地は些少なものであったことは前記認定のとおりであること、被告は、「A店」の営業実績が芳しくない場合には、原告の意思とは無関係にいつでもこれを閉店できる立場にあったこと、「A店」は、原告及びパート従業員であるBの二人で行っていた店であり、原告自らがBを補助者として、調理、レジ係、掃除等の役務に従事していたことが認められる(原告及び被告代表者本人)のであるから、以上を併せ考えれば、原告は、いまだ労基法四一条二項にいう「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するとまではいえない。