全 情 報

ID番号 05535
事件名 労働契約存在確認請求事件
いわゆる事件名 三菱電機事件
争点
事案概要  組合の元役員が鎌倉製作所技術課から電子機器の販売を行う仙台営業所への配転を命じられ、右配転命令を拒否して普通解雇され、右解雇を不当労働行為として争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
裁判年月日 1991年4月26日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 1000 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報1391号170頁/労働判例589号15頁/労経速報1429号9頁
審級関係
評釈論文 堤浩一郎・労働法律旬報1270号10~13頁1991年8月25日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 右認定の事実によれば、仙台営業所電子課は、昭和四七年末ころ半導体を中心として販売実績が飛躍的に伸び、潜在的需要も大きく見込まれる一方、営業に当たる人員が明らかに不足していたため、営業員、特に技術的知識のある営業員の補充をする必要があり、電子事業部としても当時営業部門の強化を重点施策としていた関係もあって、仙台営業所電子課に二名の販売要員の補充を認め、人員割愛先を同じ電子事業部が担当する鎌電と尼崎市の通信機製作所のうち距離的に近い鎌電に決めたというのであるから、仙台営業所の鎌電に対する割愛要請それ自体は特に問題とするようなものではない。
 しかしながら、仙台営業所電子課の販売実績の上昇は主として半導体の需要の伸びによるものであって、RSMの販売量はそれほど大きくなかった。反面そのシェアーは七〇ないし八〇パーセントと極めて大きく、販売も安定したものであって、他社も拡販を図っている状況があったとはいえ、特に緊急に人員を要するというものではなかった。したがって、割愛要請も「電子機器販売要員(半導体、ITVその他スピードメーター等)」として、半導体、ITV関係を主として掲げていたのである。こうしたことからすると、電子課がより必要としていたのはRSM関係の販売要員ではなく、半導体、ITVの販売要員であったものと思われる。その資格も、工技二、三級に限らず、事務、技術一級をも挙げていることや、半導体もITVの製造していない鎌電に対して半導体、ITVの販売要員の割愛要請をしていることからすれば、せいぜい一般的な技術知識を持つ若手という程度のものであったとみられる。被告から適任と判断された原告でさえ、入社後組合専従になるまでの四年間の仕事は主に防衛庁の対潜哨戒機に使用される磁気測定器等の開発であって、RSMを担当したのは、組合専従を終えてからの僅か四か月でしかない。被告も技術者としての能力は低いが対外的折衝能力を買って人選したと主張しているくらいである。そして、これらのことは、A所長、B副所長にも当然分かっていたはずであり、また、その程度の技術者であれば、現に担当している仕事が何であれ多数いたことも、先に認定した鎌電の規模、技術者数、特に半導体を扱える技術者の数に照らして容易に推認することができる。ところが、A所長とB副所長は、所管の人事課を通さず、課員が僅か一二名しかなく、その課長のCが割愛に応じ難いと上申していた技術第四課に対し、原告しか当てはまらないような条件を示して人選を命じているのであるから、その人選方法は異常であって、意図的なものを感じさせる。
 被告のように全国規模で事業所を展開し、多様な製品を製造販売している企業にあっては人員の配置転換の必要は大きいし、また、それが配置転換される者の意向に縛られる筋合のものでないことは勿論であるが、被告は従来再三にわたって転任については本人の希望を配慮すると表明していたのであるから、将来被告の幹部になることが予想されるわけでもなく、いくらでも代替性のあると思われる原告程度の資格・能力の者については、緊急の必要その他特段の事情のある場合ならばともかく、本人の意向をある程度配慮すべきであると思われるし、現に鎌電から仙台営業所へ転任した者はいずれも本人の希望に副うものであったのである。ところが、原告の場合は、本人の意思を全く顧慮しようとせずに内示をし、その後も原告から強く拒絶されたC課長がD部長等に白紙撤回を求めたにもかかわらず、転任を強行することに執着していたのであるから、このことも一層人選の不自然さを窺わせるものといえる。
 一方、原告は、日本共産党、民主青年同盟の立場に極めて近いグループの中心的なメンバーとして活発な組合運動をし、従来の労使協調路線の支部執行部を転覆させ、E執行部の書記長として被告とかなり厳しく対立してきた者であり、被告は、このような尖鋭なE執行部の誕生に危機感を抱き、これを転覆させ、さらにその復活を防ぐため、従来の労務管理の態勢全般の見直しを図るとともに、組合員でかつ監督者である班長層をはじめ一般組合員に対して、E執行部を覆滅させるための教育活動を強め、同執行部と対立的な立場に立つ組合員の育成を図るなどして、原告を含むE執行部及びその周辺の者を敵視し、排除しようとしていたことも明らかであるといえる。
 こうした本件転任命令の人選の異常性と被告の原告やE執行部に対する対応とを総合すると、本件配転命令は、被告が原告の組合活動を嫌悪し、再度、E執行部のような執行部が復活するのを防ぐために、仙台営業所から割愛要請を受けたのを機に、同執行部の中心メンバーで役員選挙敗退後もなお組合活動に相当の影響力を有していたとみられる原告を支部から切り離すことを目的として行われたものと認めるのが相当である。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 本件転任命令は、原告が正当な組合活動をしたことを原因としてなされた不利益取扱いであるとともに、組合に対する支配介入であって、不当労働行為に当たるものというべきであるから、この転任命令を拒んだことは被告の就業規則に定められた解雇事由に当たらない。したがって、本件解雇は解雇事由を欠き、解雇権を濫用するものであって、無効というべきである。
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 本件解雇がなければ支給されていたであろう原告の賃金の額は、他に特段の事情の認められない以上、解雇時の賃金を基準にして、他の従業員に対して実施された基準賃金の内訳の改定やベースアップに準じて算定するのが合理的である。中元手当、年末手当の額についても、同様に特段の事情の認められない以上、他の従業員に支給された一時金の平均支給率によって算定するのが相当である。