ID番号 | : | 05543 |
事件名 | : | 保全異議申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 岩井金属事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 組合ニュースを会社の許諾なしに食堂に掲示したこと等を理由としてなされた労働者の解雇につき地位保全の仮処分が申請された事件の異議の事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法3章 労働基準法89条1項3号 民法1条3項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟 解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1991年6月17日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成3年 (モ) 50966 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部却下 |
出典 | : | 労経速報1436号9頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕 解雇理由の第三は、債権者が、平成二年一二月四日、食堂に債務者の許諾なくして「A委員長を職場に戻せ」との掲示をしたというものである。しかし、 〔中略〕 債務者は、組合を嫌悪し、労働協約によって設置を保証されていた組合掲示板を、同年一〇月から一一月にかけて一方的に撤去したため、組合においては、組合のビラや機関紙を掲示する場所がなくなったこと、その後B社長が同年一一月二八日ころ食堂に組合の機関紙(C紙)を掲示する旨発言し、同日ころから組合の機関紙が食堂に掲示されていたこと、そこで債権者も、Aの不当解雇に関し、「A委員長を職場に戻せ」と記載した組合ニュースを食堂に掲示したことの事実が認められる。 右の認定事実によると、債権者の掲示行為は、B社長の発言に従ったものであって、不当なものというべきではなく、むしろ労働協約を無視して一方的に組合掲示板を撤去した債務者が責められるべきであって、債権者の右掲示行為を解雇理由とすることは許されない。 〔解雇-解雇権の濫用〕 以上によると、債務者が解雇理由として主張する事情は、いずれも正当な解雇理由となしえないものであるから、債務者の債権者に対する本件解雇の意思表示は、解雇権の濫用というべきで、無効である。 従って、債権者は、依然として債務者に対し労働契約上の権利を有する地位にあるが、債務者がその地位を争っており、債権者がこのまま本案判決の確定を待っていたのでは、それまで債務者から従業員として当然受けるべき待遇を受けられず、債権者の生活が維持できなくなるおそれがあり、特に社会保険等の加入による利益を享受するためには、仮にその地位を定めておく必要性があるので 〔中略〕 債権者が求める従業員たる地位保全の仮処分の申立ては理由がある。 〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕 賃金仮払いを命ずる仮処分は、賃金の支払いが断たれることにより労働者の生活が危機に瀕し、本案判決の確定を待てないほどに緊迫した事態に立ち至るのを暫定的に救済することを目的とするものであって、保全すべき権利の終局的実現を目的とするものではないから、仮払いを命ずべき金額は当該労働者の生活を維持するに必要な限度に止めるべきものである。 これを本件についてみると、通勤手当及び食事手当については、現実になされた通勤や勤務に伴う費用につき実費弁償的に支給されるものであって、賃金の性質を有するものではないので、仮払いの対象とすべきではないが、債権者が本件解雇前一年間に受けた賞与を除く給与のうち、基本給及び諸手当(但し、右通勤手当及び食事手当を除く)の総合計金額二一三万一九二七円を基礎として算出された月平均額は、次の計算式のとおり金一七万七六六〇円であるところ、これは都市で生活をする独身労働者にとってその生活を維持するにあたり必要な金額というべきであり、毎月右金額の仮払いを命ずる必要性がある。 |