全 情 報

ID番号 05655
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 奥村組事件
争点
事案概要  下水道用コンクリート管埋設工事のために隧道を掘削中支保工の例壊により生じた落盤事故により出かせぎ中の農民が死亡したためその遺族が損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法717条
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1971年9月8日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ワ) 5465 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 時報645号49頁/タイムズ269号233頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 隧道の掘削工事に当っては、当該箇所の地山にかかる地質、地層の状態、付近の遊水、含水の有無等の具体的情況に対応して、土砂の崩落のおそれのない堅固な構造の土止め設備をなすべきものであって(労働安全衛生規則一六三条の三八参照)、本件事故の原因となった前記のような事態の発生をも予想してこのような場合にも崩落を防止し得るような設備をなすべきが社会通念上当然である。けだし前記のような事情は到底不可抗力とはいい難いからである。
 したがって、このような設備を有していなかったため土砂の崩落という事態を招来した本件隧道は、その本来具えるべき設備を欠いたものとして、設置上の瑕疵があったものといわざるを得ない。
 なお《証拠略》によれば、本件事故の直前、隧道内に第一の鳥居型支保工を設置し、天端に矢板を打ち込みながら掘進していたが、矢板は支保工の側だけが支えられている状態であって、その切羽側は、地山を少し掘って矢板を支えることあるいは次の支保工を入れるまで仮補強のポストを設けて支えることをせず、地山が全面的に掘られてしまっていたため、支えられていなかったことが認められ、きわめて脆弱な土止め設備であったことはこの一事からしても明らかであって、本件隧道はその本来具えるべき設備を有するというには程遠いものであったといわなければならない。
 以上のとおり本件事故は被告の占有する土地工作物の設置の瑕疵によるものであり、被告が損害の発生を防止するに必要な注意をなしたことを認めるに足りる証拠はないから、被告は本件事故による損害を賠償する責任を免れない。