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ID番号 05657
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 宇品造船所・共立工業所事件
争点
事案概要  造船所で修理中のタンカー内部の吹付塗装工事中にタンク内に充満したガスの爆発により死亡した労働者の遺族が雇主および元請業者である造船所を相手どって損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
民法719条
労働者災害補償保険法16条の2第3項
労働基準法84条1項
労働基準法84条2項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1973年9月13日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 753 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴後,和解成立)
出典 時報739号98頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 1、被告工業所は被告造船所より船舶の塗装工事を専属的に請負い、被告造船所から防爆灯などの用具の貸与を受け、事務所も被告造船所構内に置いていた。
 2、被告造船所は被告工業所に塗料の種類を指定し、塗装工事は被告両者の打ち合わせの際、被告造船所より被告工業所に工事工程表を渡して指示する形で行われていた。
 3、塗装工事の際は、あらかじめ被告造船所の従業員が火気使用禁止の掲示や立入禁止のロープを張り、さらに塗装現場付近を見廻り、自社や被告工業所の社員に注意を与えることにしていた。
 右のとおり認められこれに反する証拠はない。
 かかる事実関係の下においては、被告造船所と下請業者たる被告工業所との間には後者が組織的に前者の一部門であるかの如き密接な関係があり、被告工業所の塗装工事実施に際して両者が共同してその安全管理に当っていたと認めるべきであり被告工業所の従業員の安全確保のためには、被告造船所の協力が不可欠と考えられるから被告造船所は被告工業所と共同して安全管理に当り事故の発生を未然に防止すべき注意義務があると認められる。この点に関する被告造船所の主張は理由がない。〔中略〕
 被告工業所および被告造船所はいずれも、アルミリッチぺイントが引火性の強い危険な塗料であることを熟知していた事実が認められる。このような塗料を用いて本件タンクの如き場所で塗装工事を行う場合においては、被告らは前記のように両者共同してタンク内のアルミリッチペイントから発生したガスをタンク外に排出するための万全の通風措置を講じ、もって爆発事故の発生を未然に防止する注意義務があるということができる。被告らには、右の注意義務を怠って本件事故を発生させた過失があり、本件事故によって生じた損害を連帯して賠償する責任がある。
〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 原告らは、被告工業所の抗弁2の事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなすところ、労働者災害補償保険法(以下保険法という)一六条の二の三項によれば、本件の場合原告Xが第一順位の遺族補償年金受給権者であるから原告Xが前記遺族補償年金の総額金六六万〇、六六四円を受給したことになる。そして、労働基準法(以下基準法という。)八四条一項は、同法による災害保償と保険法による災害保償とを同趣旨のものとして等しく取り扱っていると解されるので、同条二項を準用して、原告Xが既に受給した右金員を、同人が承継した前記損害賠償請求権の額より控除する。
 被告工業所は、原告Xは昭和四八年四月から生存中遺族補償として毎年金二二五、九四四円の支給を受けるので、その限度で被告らは損害賠償の責を免れる旨主張するが、保険法所定の災害補償請求権と民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権とは併立重畳の関係にあるものであって前記基準法八四条二項は衡平の見地から使用者が既に補償を現実に行った場合にはこの額を損害賠償額より控除することを定めたのにすぎないから原告Xが将来遺族補償としていかほどの金員の支給を受けるかは、本件の損害額の算定にあたって考慮すべきではない。よって、右の点に関する被告工業所の主張は理由がない。