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ID番号 05661
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 陸上自衛隊陸士長事件
争点
事案概要  自衛隊の作業中に感電事故により死亡した陸上自衛隊員が国を相手どって損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1974年8月29日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ネ) 777 
裁判結果 変更(上告)
出典 時報758号47頁
審級関係 控訴審/東京高/昭47. 4.26/昭和46年(ネ)636号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 (イ) 控訴人らは、窓の閉鎖は当然通電再開以前になすべきであって、作業手順に基本的な誤りがあったと主張するところ、窓の閉鎖作業を通電再開以前に行なっていれば本件事故が発生しなかったことは当然のことであるが、さりとて、通電されていることを窓の閉鎖作業を行なう者に周知させて事故防止のための具体的な注意・指示を与えていたならば本件事故発生を未然に防止することができたものであることは前示引用の原判決理由説示によって明らかなところであり、他方、本件変成器に通電されている間でも、通電の事実を周知させる等事故発生の危険を未然に防止する措置を講じたならば、窓の閉鎖作業を行なうことを禁ずべき理由はないというべきであるから、通電再開以前に窓の閉鎖を命じなかったことをもって作業手順を誤った過失があるものということはできない。また、控訴人らは通電再開後に窓の閉鎖を行なうという前記作業手順によるべき場合であったとしたら、Aに絶縁用保護具の着用を命ずべきであったと主張するところ、本件事故はBにおいてAに対し通電再開の事実を確実に告知して事故防止のための具体的な注意・指示を与えることをしなかったことによるものであって、絶縁用保護具の着用を命ずることはAに通電再開の事実を告げて事故防止のための具体的な注意・指示を与えたことに帰するところ、これが通電再開の事実を確実に告げて事故防止のための具体的な注意・指示を与えることをしなかったことにBの過失が認められる以上、絶縁用保護具の着用を命じなかったことにBに過失があるかどうか判断をすすめるまでもない。
 (ロ) 控訴人らは、Bにおいて指揮監督に専念すべき義務を怠たり、また労働安全衛生規則にしたがわず、作業の方法、順序の計画を作成せず、まして作業員にそれをあらかじめ周知、徹底させなかったと主張するけれども、本件事故はBが通電再開の事実を周知させて事故防止のための具体的な注意・指示を与えずに窓の閉鎖作業を命じたことに基づくものであって不十分とはいえBの指揮監督によるものであり、また通電再開後の窓の閉鎖作業という作業順序を行なったことには通電再開の事実をAに告げて具体的な注意・指示を与えることなく閉鎖作業を命じた点において危険防止の義務を怠った過失があるものであるから、作業の方法、順序の計画が控訴人ら主張の規則に従うかどうかを論ずるまでもない。〔中略〕
 BとAの過失の割合について
 Bは高圧電流の通電する場所での作業における指揮者であって、その用うべき注意、責任は極めて大きく、ことに通電再開による危険を十分に認識していたにもかかわらず、これが事実をAに周知させることなく本件電気室内の窓の閉鎖作業を命じたものであり、他方Aは窓の閉鎖作業に取りかかる前にまもなく変成器のところまで通電されるであろうことを認識していたにもかかわらず、軽卒にも変成器のアングルに足をかけてその上に乗るような姿勢をとったため本件事故を発生させたもので、これらの事実をあわせ考えると、当事者双方の過失は、ほぼBの過失七に対しAの過失三とするのを相当と認める。