ID番号 | : | 05663 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 三共自動車事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | クレーンのワイヤロープが切れてバケットが落下して負傷した労働者が使用者に対して損害賠償を請求した事例。 |
参照法条 | : | 民法717条 労働基準法84条2項 厚生年金保険法47条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償 |
裁判年月日 | : | 1975年3月27日 |
裁判所名 | : | 高松高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和48年 (ネ) 79 |
裁判結果 | : | 棄却(上告) |
出典 | : | 高裁民集28巻2号87頁/時報789号45頁/タイムズ325号209頁 |
審級関係 | : | 上告審/05180/最高三小/昭52.10.25/昭和50年(オ)621号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 本件ワイヤロープの設置又は保存に瑕疵があつたか否かについて判断するに、本件事故は、前述の通り、本件クレーンに取り付けられたクレーンケーブルの先端のフツクに本件ワイヤロープを引掛け、本件シヨベル車のバケツトを吊り上げた際に、本件ワイヤロープが突然切断して起きたものであるところ、原審証人A、同B、同Cの各証言、原審における検証の結果によれば、本件ワイヤロープのような直径一センチメートルの鋼鉄製のワイヤロープは、通常は重さ約三屯ないし五屯程度の物を吊り上げても切断するようなことはないこと、本件シヨベル車のバケツトの部分の重さは二屯もなく、本件ワイヤロープが通常の品質さえ備えていれば、右バケツトの部分を吊り上げてもその途中で切断するようなことはないことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。してみれば、本件ワイヤロープが前記の如く本件シヨベル車のバケツトの部分を吊り上げたことにより切断したことは、他に特段の事情が認められない限り、本件ワイヤロープがその本来具備しているべき通常の品質、性質を備えておらず、したがつてその設置又は保存に瑕疵があつたものというべきところ、本件における全証拠によるも、右特段の事情を認めることはできない。 〔中略〕前述の如く本件ワイヤロープは通常は三屯以上の物を吊り上げても切断しないのに、右三屯に満たない本件シヨベル車のバケツトを吊り上げて切断したことは、他に特段の事情がない限り、本件ワイヤロープには、当時通常備えているべき品質、性質を備えておらず、何等かの瑕疵があつたものと認むべきであり、また、右瑕疵を具体的に特定して認定できない場合であつても、なお、民法七一七条にいわゆる土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があると認めることは妨げないと解すべきである。 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕 一審原告が労災保険から本件事故後昭和四六年一月三一日までの間に休業補償給付金として金七五万八六七〇円の支給を受け、また長期傷病補償給付金として昭和四六年二月以降昭和四八年一〇月まで年額金二〇万八〇五〇円の割合による金員を、昭和四八年一一月から同四九年一〇月までの分として金二三万〇八八一円を、それぞれ支給されたこと、以上の事実については当事者間に争いがなく、またさらに、今後も長期傷病補償給付金として年額金二三万〇八八一円の支給を受け得ることになつていることは弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。しかして、本件事故は、一審被告に雇用されていた一審原告が一審被告の業務に従事中発生したものであつて、一審原告の前記負傷が業務上のものであることは、前記認定の諸事実から明らかであるから、労働基準法八四条の規定に照らし、一審原告がこれまでに労災保険から支給を受けた休業補償給付金及び長期傷病補償給付金を前記一審原告の逸失利益から控除すべきは勿論、将来給付を受くべき長期傷病補償給付金についても、ホフマン方式により年五分の中間利息を控除してその現在価額を算出した上、これを一審原告の逸失利益から控除すべきであると解するのが相当である。一審原告引用の最高裁判所の判決は、第三者の不法行為にかかるものであつて、本件と事案を異にするものであり、右将来支給を受くべき給付金は、これを逸失利益から控除すべきではないとの一審原告の主張は採用できない。なお、右将来支給される長期傷病補償給付金を逸失利益から控除すべきか否かは法律問題であつて、この点につきいわゆる裁判上の自白が成立する余地はないから、右の点に関する一審原告の主張の訂正が裁判上の自白になるとの一審被告の主張は失当である。そして一審原告がその稼働可能な期間中の昭和四六年二月一日から昭和八五年五月末日までの間に給付を受け又は受け得べき長期傷病補償給付金の昭和四五年三月現在の現在価額をホフマン方式により年五分の中間利息を控除して計算すると、その額は、別紙計算書(二)(略)の通り、金四七五万九一三二円となるから、これを前記逸失利益から控除すべきである。 〔中略〕使用者の業務に従事中起きた事故による負傷に基づき右障害年金の支給を受けながら右同一事故による労働能力喪失を理由として、右使用者に逸失利益の賠償を求めることは、右厚生年金制度の目的、障害年金の機能、その他衡平の原則等に照らし、許されないものと解するのが相当である。よつて、一審原告の既に支給を受けた右障害年金については勿論、将来支給を受くべき障害年金についても、その現在価額を算出して、これを前記逸失利益から控除すべきであると解すべきところ、一審原告の稼働可能期間である昭和四六年一一月から昭和八五年五月までの右障害年金の昭和四五年三月現在の現在価額を、ホフマン方式により年五分の中間利息を控除して計算すると、その額は、別紙計算書(三)(略)の通り、金四六五万六一六七円となるから、これを前記逸失利益から控除すべきである。 |