全 情 報

ID番号 05664
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 愛知製鋼所・三栄組事件
争点
事案概要  工場内の溝蓋の補修作業に従事していた者が、サイドフォークリフトにひかれて死亡した事故につき遺族が使用者および材料等の運搬を請負っていた会社を相手どって損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
民法715条
民法717条
労働組合法16条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 労災上積み補償・特別補償協定
裁判年月日 1975年12月26日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 919 
裁判結果 一部認容,一部棄却(確定)
出典 時報836号91頁/タイムズ338号244頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 右蓋の修理作業は業務上の必要性に基づくものであり、本件事故当時Aは側溝に向って蹲まった姿勢で右修理作業を行なっていたと推認されるところ、後進で進入しようとしたBには局所照明設備がないため西入口付近の安全を確認するには容易でなかったと考えられ、また、Aから本件サイドフォークリフトの動行を認識するにも困難を伴ったと考えられる。したがって、西入口の設置上の瑕疵、右に起因する修理作業をAがしていたこと、と本件事故との間には相当因果関係があり、このことは、仮に、本件事故につきBもしくはAに過失が存在するとしても左右されるものではない。されば、本件事故は右西入口の設置上の瑕疵により生じたものと解するを相当とする。
 したがって、被告Y1会社は右瑕疵ある工作物の所有者として民法七一七条により本件事故により生じた損害を賠償すべき義務を負う。
 〔中略〕
 (一) サイドフォークリフトの運転者としては、その進行方向上の安全を確認すべき義務があるのはいうまでもなく、特にサイドフォークリフトは騒音の高い場所を走行したり夜間に走行したりする場合もあるのであるから、バックホーンやバックランプの故障を発見したならば速やかに運転を中止して故障を修理したうえ運転を継続すべき義務がある。また、故障を放置して運転を継続するのであれば、万全の安全確認を尽すべきは当然である。Bは、右故障を放置したまま運転を継続していたのであるから、C班長運転のサイドフォークリフト五〇五号が西入口を通過したからといって漫然危険がないと安心することなく改めて同入口付近の安全を十分に確認したうえ、更に同入口で一旦停止させ、作業者との衝突を未然に防止すべき注意義務があったのはいうまでもないところ、同人はこれを怠り本件事故を惹起させたものであり、同人には本件事故発生につき過失があるというべきである。
 (二)【1】 被告Y2会社が被告Y1会社と請負契約を締結し被告Y1会社構内における原材料、鋼片及び鋼材の運搬作業を行なっていたことは前記のとおり当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば次の事実が認められ右認定を左右するに足る証拠はない。
 被告Y2会社は前記請負業務のうち知多工場構内における鋼片等の運搬作業については、作業総量のうち約一五パーセントを自社の直轄として残し、その余をD会社と訴外E合資会社に下請させており、本件第三圧延課における鋼片運搬作業はD会社が専属的に行なっていた。被告Y2会社は右請負業務についての一般的、全体的な事項に関しては被告Y1会社から直接指示を受けていたが、日常現場における具体的作業については被告Y1会社従業員からD会社従業員になされるのが実状であった。被告Y1会社における外注業者従業員に対する服務管理及び車両並びに車両運行に関する管理を定める同被告の「外来作業者服務規程」「構内交通安全管理規則」「構内専用車両管理基準」は、同被告から被告Y2会社に交付され、被告Y2会社がD会社にこれらに基づき指導をなし、また、被告Y1会社構内における被告Y2会社の右請負業務遂行のために使用するサイドフォークリフト等の車両はすべて被告Y2会社の所有でその旨の表示が付せられ、これをD会社等に貸与していた。これらの車両の点検は、年一回行なわれる定期点検については被告Y2会社自らが行ない、日常の点検についてはD会社等の下請会社で行なっていたが、その費用は被告Y2会社から下請会社に請負代金中に含めて支払われていた。D会社は、Y2会社D会社班という意味で「D会社班」とも一般的に呼称されていた。
 【2】 以上の事実からすれば、D会社従業員は右第三圧延課における鋼片運搬作業に関し、被告Y2会社の一般的指揮命令の下にあったというべきであり、その実態に徴するならば、同被告の被用者と同視しうる立場にあったと認められる。
 (三) したがって、本件事故はBが右鋼片運搬作業遂行中にその過失により惹起させたものであるから、被告Y2会社は民法七〇九条、七一五条一項本文により、本件事故につき損害を賠償すべき責任がある。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-労災上積み補償〕
 原告Xが被告Y1会社から弔慰金として三〇〇万円を受領したことは前記のとおり当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、被告Y1会社は「災害補償規程」六条で社員が死亡した場合労働者災害補償保険法一六条の二所定の順序により同法による補償給付とは別に遺族に弔慰金として三〇〇万円を支給する旨規定しており、この弔慰金の金額は被告Y1会社と訴外鉄鋼労連F労働組合、同G工場労働組合との団体交渉の結果双方が合意に達して決定されたことが認められ、これに反する証拠はない。
 しかしながら、右「災害補償規程」に基づく弔慰金は社員が災害に遭遇した場合に生活補償的意味において会社から支給されるものにすぎず、労働組合が使用者との協定等によってその組合員と使用者との労働契約の内容を律しうる範囲はいわゆる労働条件に関する部分に限られる趣旨からしても、それ以上に災害発生につき使用者が責を負う場合にまで使用者の賠償義務を右弔慰金の範囲に留める趣旨のものとは解しえない。したがって、右弔慰金が賠償額の予定であることを前提とする被告Y1会社の主張は到底採用できない。