ID番号 | : | 05666 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 山川造船所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 船舶の修理業者が、修理船舶をドックに揚げるに際し船台への固定作業に過失があったとして同船舶の甲板から飛びおり受傷した船長および機関長から損害賠償を請求された事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法422条 船員法91条 労働基準法76条 労働基準法77条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償 |
裁判年月日 | : | 1976年12月23日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和48年 (ワ) 577 昭和48年 (ワ) 796 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却(確定) |
出典 | : | 時報859号75頁/タイムズ352号289頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 下森定・判例評論232号20頁 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 A船が傾斜したのは、同船を船台に固定する作業に関連するものと考えるほかはなく、同船が巻揚機による陸揚作業開始後、すぐ傾斜した前記認定事実に鑑みると、右作業の直前になされる船台固定の作業つまり同船の左右両下舷に密着させた前記腹台ないしくさびが、一方の下舷に片寄り過ぎていたのにそのまま巻揚機により同船を陸上に引っ張ったため、同船が傾斜し、その勢いで前記造船ギルが外れたものと認めるのが相当である。してみると、本件事故は、被告側の従業員が船台固定作業において前記過誤をなし、しかもそれを看過して漫然と陸揚げ開始の作業指揮をした被告の過失により発生したものというべく、被告は、民法七〇九条により、原告らに対し本件事故で蒙った損害を賠償する義務があるものといわなければならない。 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕 原告X1は前記受傷により、船員保険障害認定等級職務七級の障害を残し、船員保険法四〇条に基づく障害年金一五五万六、四二九円を受け、また原告X2は前記受傷により前記職務五級の障害を残し、同法四〇条に基づく障害年金六六万円を受けたことが認められる。 そこで、右障害年金は本件において原告ら主張の損害金から控除すべき対象となるかどうかを考えてみるに、右障害年金も船員保険法二五条により、政府は右年金を支給したことによって、不法行為の加害者に対し損害賠償請求権を代位請求できることになるのであるけれども、右障害年金は、当該船員が後遺症によって喪失した労働能力の得べかりし財産上の損害に対し、これを補償するため支給されるものと解されるから、政府が右年金を支給しても、その損害とは異なる、当該船員の不法行為者に対する休業損害、入院雑費、慰藉料、弁護士費用等損害賠償請求権について代位を生ずることがなく、右損害賠償請求金について支給された年金を控除すべきでないというべきである(慰藉料につき最高裁判所昭和三七年四月二六日第一小法廷判決、民集一六巻四号九七五頁参照)。したがって、原告ら主張の前記休業損害、入院雑費および後記慰藉料、弁護士費用から前記障害年金を控除できない。 〔中略〕C会社が同原告に対し支払った前記金員は、同原告の本件受傷から生じる損害を補償する性質を有するものであることを否定できないが、しかし、右金員は、船員法八九条以下の条文で規定する災害補償でなければ、船員保険給付でもない。そして、右金員支払の根拠が前記のとおりC会社と海員組合との労働協約にあることを着目すると、前記労働協約書が規定している災害補償は、あくまで労使間で定めた船員等従業員の待遇に関する規範であって、その補償金給付は、つまるところ船員に対する生活補償にあり、損害賠償とは相互に関連性をもたない異質のものと考えられる。そうすると、C会社は、原告角谷に対し前記補償金を支払っても、同金員の性質が右のとおりである以上、民法四二二条や同法七〇二条によって、同原告の被告に対する損害賠償請求を代位する余地がなく、したがって、同原告主張の本件損害賠償請求金から前記受領金員を控除する理由もなく被告の前記主張は採用できない。 |