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ID番号 05668
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 海南特殊機械・竹村工業・松川建設事件
争点
事案概要  エレベーターの据付工事に従事していた労働者が墜落死した事故で、遺族が雇主(孫請)、工事の元請会社、工事の発注者である元請会社の親会社に対して損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法715条
労働者災害補償保険法23条
労働者災害補償保険法12条の4
厚生年金保険法40条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / リハビリ、特別支給金等
労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1987年3月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 2624 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例497号92頁
審級関係
評釈論文 岡村親宜・労働法律旬報1176号63~66頁1987年9月25日/渡辺達徳・法学新報〔中央大学〕95巻5・6号267~281頁1988年12月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 被告Y1機械の安全管理者A及び本件工事現場責任者Bは、墜落を防止するため、本件工事現場の本件開口部に、囲い、手摺り、覆い等墜落防止に必要な措置を講ずべき注意義務を負っていたものであるところ、Aは、昭和六〇年四月九日、本件工事現場を視察したが、本件開口部の床を作業のため使用すること、使用すれば本件開口部からの墜落の危険性に気付いたものの、また、Bは、亡Cらを指揮して本件工事に従事させるにあたり、右開口部から本件工事に従事する労働者が墜落する危険に気づいていながら、A及びBは墜落防止の措置を何ら講じず亡Cらをして本件工事に従事させ、本件事故を発生させたものである。被告Y1機械は、A及びBを被用し、被告Y1機械の事業を執行するため、本件工事に従事させていたものである。
 被告Y2建設は、墜落を防止するため、本件工事現場の本件開口部に、囲い、手摺り、覆い等墜落防止に必要な措置を講ずべき注意義務を負っていたものであるところ、被告Y2建設の現場代理人Dは、本件工事現場において、被告Y1機械の労働者が本件開口部にある床を本件工事のため使用し、その際右開口部から本件工事に従事する労働者が墜落する危険に気づき、昭和六〇年四月初旬ころ下請けのE工営に指示して手摺りの設置を指示したが、E工営がこれを完成させずに放置していたにもかかわらず、完全な墜落防止の措置を講じず、亡Cらをして本件工事に従事させ本件事故を発生させたものである。被告Y2建設は、Dを被用し、被告Y2建設の事業を執行するため、Dを現場代理人として被告Y1機械を孫請として使用し、本件工事に従事させていたものである。したがって、被告Y2建設は民法七一五条一項により原告らの後記損害を賠償する責任がある。
 〔中略〕
 2 右事実に徴すると、被告Y1機械の従業員であるBには前記の過失があるものであり、被告Y1機械の業務の執行中のものであり、また被告Y2建設の従業員であるDには前記の過失があり、被告Y2建設の業務の執行中のものであるから、被告Y1機械及び被告Y2建設は、民法七一五条一項により原告らの後記村(ママ)を賠償する責任があるというべきである。
 〔中略〕
 原告らは、被告Y3は、被告Y1機械の代表取締役の地位にあり、同社の代理監督者であったというべきところ、本件事故は、被告Y1機械の安全管理者A及び現場責任者Bの前記墜落防止に必要な措置を講ずべき注意義務違反により発生したものであるから、民法七一五条二項により原告らの後記損害を賠償する責任があると主張するが、法人の代表者は、現実に被用者の選任、監督を担当していたときに限り、当該被用者の行為について民法七一五条二項による責任を負うものであると解すべきところ(最判(三小)昭和四二・五・三〇民集二一・四・九六一)、その点についての主張、立証がないから、原告の主張は理由がない。更に、原告らは、被告Y3は、Bをして本件開口部に墜落防止に必要な措置を講じた後作業に従事させるよう指揮監督すべき注意義務を負っていたところ、これを重大な過失により怠り、本件事故を発生させたものであるから、商法二六六条の三により原告らの後記損害を賠償する責任があると主張するが、重大な過失の内容、程度について具体的な主張、立証がないから、原告の主張は理由がない。
 以上によれば、被告Y1機械及び被告Y2建設は、原告らの後記損害を賠償する責任があり、被告Y3及び被告Y4工業は、その責任がないものというべきである。
 3 更に、本件訴訟に顕れた被告らの前記過失と、〔中略〕亡Cにも本件事故の発生につき三割の過失があるとみるのが相当である。労災事件については過失相殺をすべきではないという原告らの主張は独自の見解であり採用できず、本件開口部が墜落の危険があることは見やすい道理であるから、本件開口部を使用する必要性の乏しい本件においては亡Cの過失の決して小さくはないものである(もっとも、被告Y1機械及び被告Y2建設の過失もかなり大きいものであって、本件は双方の過失が大きい事案であるということができる。)。
〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 被告Y1機械及び被告Y2建設は、遺族補償給付金は、将来にわたって年金で支給されることが予定されているから、これについても損害から控除すべきであると主張するのでこの点について判断するに、「労働者災害補償保険法又は厚生年金保険法に基づき政府が将来にわたり継続して保険金を給付することが確定していても、いまだ現実の給付がない以上、将来の給付額を受給権者の使用者に対する損害賠償債権額から控除することを要しない。」(最判(三小)昭和五二・一〇・二五民集三一・六・八三六、第三者が加害者の場合にも同旨の判決がある。(最判昭和(三小)五二・五・二七民集三一・三・四二七)から被告Y1機械及び被告Y2建設の主張は失当であり、これを控除すべきではないというべきである。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-リハビリ、特別支給金等〕
 遺族特別給付金は、労災保険法一二条の八に規定されている保険給付ではなく、同法二三条の規定に基づき労災保険の適用事業にかかる労働者の遺族の福祉の増進を図るための労働福祉事業の一環として給付されるものであって、労働者が被った損害のてん補を目的とするものではないから、損害を算定するにつき、これを損益相殺の法理によりその損害額から控除することはできないものと解するのが相当である。
〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 原告Xは、厚生年金法に基づく遺族年金を支給される旨決定され、昭和六〇年八月から昭和六一年一一月まで右年金合計九〇万七二五〇円の給付を受けていること及び将来にわたって相当額が年金として支給される予定であることが認められる。そこで、金員が原告の損害からてん補されるべきか否かにつき判断するに、厚生年金保険法による年金の給付については、同法四〇条は、事故が第三者の行為によって生じた場合に保険給付をしたときは、政府は、その給付の価額の限度で、受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得し(同条一項)、受給権者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で、保険給付をしないことができる(同条二項)旨規定している趣旨に鑑みるに、使用者が加害者である場合においてのみ、これが控除の対象とはならないと解することは困難であるから、右支払いずみの年金九〇万七二五〇円は、損害賠償額から控除すべきものであるというべきである(最判(三小)前掲はこれを当然の前提としている)。そして、将来の給付分については「労働者災害補償保険法又は厚生年金保険法に基づき政府が将来にわたり継続して保険金を給付することが確定していても、いまだ現実の給付がない以上、将来の給付額を受給権者の使用者に対する損害賠償債権額から控除することを要しない。」(最判(三小)前掲)から被告YI機械及び被告Y2建設の主張は失当であり、これを控除すべきではないと云うべきである。