全 情 報

ID番号 05677
事件名 行政処分取消請求事件
いわゆる事件名 神戸西労働基準監督署長事件
争点
事案概要  作業中にベルトコンベアーに右手をはさまれて負傷した労働者の残存障害につき労働基準監督署長のした障害等級認定が争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法施行規則15条5項
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
裁判年月日 1970年5月18日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (行ウ) 1 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集21巻3号670頁/訟務月報16巻10号1184頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 労災法施行規則第一五条第五項によれば、同一部位の加重障害の場合における障害補償給付は、「現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付とし、その額は、現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付の額から、既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付の額(略)を差し引いた額による。」とされているところ、原告は右条項の趣旨は、既存障害について現実に障害補償給付を受けた者に対して新規障害を理由として二重に補償のなされることを避けようとするにあるから、控除の対象となるのは現実に前に支給された給付額であり、従つて、その算定の基礎となるのはその時(既存障害発生時)の平均賃金であると主張する。しかしながら、右条項の趣旨は前述のように、同一部位における障害の程度を加重した場合、新規障害の発生時点において、新旧両障害によつて生じた、全体としての労働能力喪失の程度を障害等級表に当てはめて評価し、同時に既存障害によつて喪失済みの労働能力を同時点における同様の方法で評価して、その差に該当する部分(ただし算術級数的な差ではなく、身体の各部位が労働能力の素因として一体的に機能するところの差と解される。)を評価する方法により新規障害に対する障害補償給付額を決定すべきことを定めたものと解されるから、既存障害が先天性のものであるか否か、業務外のものであるか否か、これにつきかつて障害補償給付を受けたか否か等については問題としていないといわざるをえないのである。同条項が、「既に受けた障害補償給付の額(略)を差し引」くとしないで、「既にあつた身体障害の…………障害補償給付の額(略)を差し引」くと規定したのは右の趣旨を示すものと解する。
 そうすると、本件において、障害補償給付の額を、現在の障害に対する平均賃金の四五〇日分から既存障害(第一〇級)に対する平均賃金の二七〇日分を差引き、新規障害の発生時点における平均賃金五一二円の一八〇日分相当額の金九万二、一六〇円とし、右金員を給付する旨決定した被告の処分は違法ではない。