全 情 報

ID番号 05695
事件名 障害補償給付支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 春日部労働基準監督署長(加藤製作所)事件
争点
事案概要  右手第三指および第四指の亡失とそれに伴うカウザルギー等について、労働基準監督署長の障害等級認定処分の当否が争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法施行規則14条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
裁判年月日 1987年2月13日
裁判所名 浦和地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (行ウ) 1 
裁判結果 棄却
出典 労働判例501号69頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 原告は受傷直後から再審査請求に対する裁決の時点まで一貫してカウザルギーによる疼痛を訴えてきていることが認められる。そして、原告の自訴どおりの疼痛が客観的にも認められるのであれば、原告の残存障害たる「カウザルギー及び精神障害」については、軽易な労働以外に常に差し支える程度の疼痛のある場合であるとして第七級の三と認定すべきものであろう。
 ところで、前にも述べたとおり「カウザルギー及び精神障害」については、「障害等級認定基準」によれば等級認定する場合には、第七級の三、第九級の七の二、第一二級の一二のいずれかの等級に認定すべきこととなるが、証人A、同Bの各証言及び弁論の全趣旨をあわせれば、カウザルギーによる障害等級の認定にあたっては、患者の自訴のほか疼痛の発作の頻度、疼痛の強度と持続時間及び疼痛の原因となる他覚的所見によって、疼痛の労働能力に及ぼす影響を判断してなさなければならないということは認定行政に関与する専門医師の共通の認識であることが認められ、この認識は障害給付制度の趣旨と先に述べたカウザルギーの性質に照らし、合理的なものとみることができる。
 そうすると、受傷者の軽易な労働以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるとの自訴に加えて、他覚的所見により、その自訴を積極的に裏付けることができない限り、第七級の三と認定することはできないと解すべきである。このことは、カウザルギーにおける疼痛の判断がその性質上客観的な面から把握することが困難で受傷者の自訴を中心として判断するほかないとしても、真に労災保険によって保護を受けるに価する者と症状を不当に誇張して障害補償給付の支給を請求する者とを区別して、労災保険制度を適正・公平に運用するためには、必ずしも不合理とは言えないのである。
 本件について見ると、原告は一貫して第七級の三に認定することができるような自訴をしてきたことが認められるが、前記の(二)、(2)の原処分をなした際の手続、審査手続、再審査手続の各手続を経ても、原告の自訴を積極的に裏付けるべき他覚的所見は特に見当らず、かえって、自訴に反する事実も認められるのである。
 すなわち、既に認定したように、原告は、昭和五六年二月に予定された疼痛除去手術を受けなかったこと((二)、(1))、「身体障害申立書」中請求人欄を自署したこと((二)、(2)、1)、原処分後にラーメン屋で働いていたこと((二)、(2)、2、(1))、腕の太さには視診では左右差が認められず、皮膚の色・光沢に異常がなかったこと((二)、(2)、2、(3))はいずれも、右手を使用してきたということを推認させるものである。
 従って、原告の残存障害たる「カウザルギー及び精神障害」を第九級の七の二とした本件認定はこれを正当として是認できるものである。
 そして、原告の右手第三指及び第四指の亡失と右手第五指の用廃については当事者間に争いがないところ、前記施行規則別表障害等級表に照らすと、前者については障害等級表第一〇級の五、後者については同等級表第一四級の五にあたるとする認定はいずれも正当であるから、身体障害が二以上ある場合には、重い方の身体障害の該当する障害等級によるとし、第一三級以上に該当する身体障害が二以上ある場合には一級繰り上げた障害等級によるものとした規定(施行規則一四条二項、三項)を適用して、原告の障害等級を第八級と認定したうえ同等級相当額の障害補償給付をする旨の被告の処分は適法である。