ID番号 | : | 05696 |
事件名 | : | 移送決定に対する即時抗告申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 社会保険庁長官事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 死亡した船員の配偶者(妻)が職務上の事由による遺族年金支給裁定を請求したところ、職務外の事由による遺族年金支給裁定を受け、この裁定処分の取消を争う訴えの提起に関連して、死亡原因調査を行なった下関社会保険事務所長または山口県知事が行訴法一二条一項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当するか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 行政事件訴訟法12条3項 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 行政処分の存否、義務づけ訴訟等 |
裁判年月日 | : | 1989年4月18日 |
裁判所名 | : | 広島高 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成1年 (行ス) 1 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 行裁例集40巻4号316頁 |
審級関係 | : | 一審/山口地/平 1. 2.16/昭和63年(モ)5号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-行政処分の存否、義務づけ訴訟等〕 行政事件訴訟法一二条三項は、行政処分の中には、形式上は上級行政機関が行なった処分の体裁をとってはいるが、下級行政機関が資料を収集して意見具申をし、これによって上級行政機関が処分をするなど、実質上は下級行政機関が処分をしたのと同様な関係にある場合があり、このような場合には、下級行政機関の管轄区域内に資料等も存在するため、上級処分庁の所在地で審理しなくても被告行政庁側が応訴に困難を覚えることはなく、審理の円滑な進行も期待でき、原告国民側にとっても出訴が容易であるなど、双方の利害の均衡をはかることができることから、特別に下級行政機関の所在地に裁判籍を設けた規定と解されるが、右規定の趣旨からすると、その「事案の処理に当たった」とは、下級行政機関が上級行政機関の依頼によって処分のための資料収集の補助をするなどして関与した程度では足りず、自ら資料収集のうえ上級行政機関に意見具申するなどして、上級行政機関の意思形成に協力し処分の成立に実質的に関与する場合を意味するものと解するのが相当であり、また、同項の「下級行政機関」とは、法令上資料収集や意見具申等の権限を有する行政機関に限らず、内規等により運用上資料収集や意見具申等の関与が求められている下級行政機関であってもよいが、ただ、その事案の処理に関してなんらかの意味での指揮命令に服する関係にあることが必要とされるものというべきである。〔中略〕 さらに、一件記録によれば、相手方が、遺族年金支給裁定請求に関して、社会保険事務所に対し、職務上の事由による死亡かどうかの調査を依頼し、その旨の報告を徴するなどの内規や慣行の類はないことが認められ、これによれば、相手方は、内部的にも、右調査依頼や報告等を必要としない態勢で右裁定事務に臨んでおり、都道府県知事や社会保険事務所の関与をなんら予定していないものというべきである。 また、船員保険に関する機関委任事務を処理する点においては、都道府県知事は厚生大臣の指揮監督を受ける下級行政機関となり、都道府県知事からさらにその委任を受けた社会保険事務所長もその下級行政機関ということができるが、社会保険事務所長は、国家公務員としての身分をも有する地方事務官という特殊な立場にはあるが、本来は地方自治体の行政機関であるにすぎず、機関委任事務以外の国の事務については、国の下級行政機関であるとはいえないものであり、機関委任事務以外の事務である遺族年金支給裁定に関する事務についても、国の指揮命令に服する関係にはないものというべきである。 以上によれば、本件において、下関社会保険事務所長による抗告人の遺族年金支給裁定請求を相手方に進達するなどの事務処理をもって、遺族年金支給裁定事務そのものの処理に当たったものと評価すべきではないのはもちろんであるが、さらに、同社会保険事務所長が右請求書に前記「事情聴取書」等の書面を添付したことなどについても、法令、内規、慣行等にその根拠があるわけのものではなく、偶々葬祭料の支給を職務外の事由で行なった関係上、相手方に対する事実上の配慮として参考程度に付したものにすぎないものであることが明らかであるから、右は、資料収集や意見具申等によって相手方の裁定事務そのものに関与したものとはいえず、せいぜい地方自治体の行政機関がなんら指揮命令に服さない関係にある国の行政機関に対して対等な立場でいわゆる行政協力をした程度にすぎないものであり、これをもって、同社会保険事務所長が相手方の遺族年金支給裁定に実質的に関与し、その「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当するに至るものとは到底いえない。 他に、本件に関し、山口県知事又は下関社会保険事務所長が、行政事件訴訟法一二条三項の「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当することを首肯させる事実関係を認めるに足りる資料はない。 |