ID番号 | : | 05701 |
事件名 | : | 公務員災害認定外裁決取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 地方公務員災害補償基金愛知県支部長(瑞鳳小学校教員)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 小学校の教諭の特発性脳内出血による死亡につき、その遺族が公務災害として補償されるべきであるとして、公務災害でないとした地方公務員災害補償基金支部長の処分の取消を求めて争った事例。 |
参照法条 | : | 地方公務員災害補償法31条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1989年12月22日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和58年 (行ウ) 6 |
裁判結果 | : | 認容・却下(控訴) |
出典 | : | 労働判例557号47頁 |
審級関係 | : | 控訴審/05959/名古屋高/平 3.10.30/平成2年(行コ)1号 |
評釈論文 | : | 新谷真人・季刊労働法155号182~183頁1990年5月/野呂汎・労働法律旬報1234号44~48頁1990年2月25日 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 訴外Aの死亡が補償法所定の「職員が公務上死亡し」た場合に該当するというためには、訴外Aの死亡原因である特発性脳内出血が公務に起因して発症したものといえなければならず、右のような公務起因性が認められるためには公務と特発性脳内出血の発症との間に相当因果関係が存在することが必要である。 特発性脳内出血は前記判示のとおり脳内微小血管に存在する血管腫様奇形等が破裂して発症するものと考えられるから、訴外Aについても、直接に発見されてはいないが脳内微小血管に血管腫様奇形等が存在したものと推認することができる。右血管腫様奇形等の成因は不明であるが、訴外Aは右素因ないし基礎疾患を有していたために脳内の微小血管が脆弱で破裂しやすいという身体的弱点を有していたものということができる。 このように、既存の素因ないし基礎疾患(以下「素因等」という。)が原因または条件となって発症した場合であっても、公務が素因等の増悪を早めた場合または公務と素因等が共働原因となって死亡原因となる疾病を発症させたと認められる場合には、公務と右疾病の発症との間に相当因果関係が肯定される。 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 特発性脳内出血の場合には、前記判示のとおり、公務による精神的、身体的負荷に起因して発症する可能性があるものであるが、他方、他の要因による精神的、身体的負荷に起因して発症する可能性もあり、さらに、右のような外的ストレスとは無関係に発症する可能性もあるから、これらの場合と公務に起因して発症した場合とを判別することは容易ではないけれども、当該職員の公務による精神的、身体的負荷の程度(公務の時間、密度、公務の形態、難易度、責任の軽重、公務の環境など)、右の精神的、身体的負荷によって当該職員が受ける精神的、身体的負担の程度、他の要因による精神的、身体的負荷の有無、程度などを総合考慮したうえ相当因果関係の存否を判断すべきである。 特発性脳内出血の場合には、前記血管腫様奇形等という素因等の存在により当該職員の脳内微小血管は脆弱で破裂しやすい状態にあるため、正常な血管を有する正常人と比較すると精神的、身体的負荷によって当該職員が受ける負担の程度はより大きいものになるから、公務による精神的、身体的負荷が一般的に特に過重な程度に至らなくても、当該職員にとっての負担は特に過重な程度に至る場合がある。この場合、当該職員にとっては、血管腫様奇形等という素因等を特発性脳内出血発症以前に認識・予見することは極めて困難であるから、自己にとって特に過重な負担を受けることのないようこれを回避する措置を事前に講ずることを期待することはできない。このように、過重負担を回避することが不可能な状態で熱心に公務を遂行したことにより、結果的にそれが当該職員にとって過重な負担となり、そのために特発性脳内出血を発症した場合に、その危険を当該職員にのみ負担させるのは当該職員に酷であるというべきであるから、このような場合、公務と特発性脳内出血の発症との相当因果関係の存在を一般的に否定することは相当でない。したがって、相当因果関係の存否を判断するに当たり、公務による精神的、身体的負荷が一般的に特に過重な程度に達していなくても、公務による精神的、身体的負荷が、当該職員にとって脳内微小血管の血管腫様奇形等の破裂を引き起こすに足りる程の負担をもたらす程度に相当重いものと認められ、かつ、他に特記すべき精神的、肉体的負荷を惹起すべき要因ないし特発性脳内出血の発症原因となるような要因が認められない場合には、医学的に因果関係が明確に否定されるなどの特段の事情が存しない限り、公務と素因等が共働原因となって特発性脳内出血を発症させたものと推認すべきであり、この場合、公務と特発性脳内出血の発症との間には相当因果関係が存在するものと判断するのが相当である。〔中略〕 以上の検討の結果を総合すると、訴外Aは、昭和五三年四月一日以降、新設校における中核的教諭として自己の学級担任による職務の他に学年主任その他校務分掌上の多数の職務の責任者的立場にあって通常の場合に比較すると多忙でかつ精神的緊張を要する職務に従事していたところ、同年一〇月に入ってから、主に早朝及び授業終了後の時間にポートボール練習の指導が始まり、同月二四日及び二五日に一泊二日の修学旅行が実施され、その事前指導・準備及び修学旅行引率の職務を中心的かつ熱心に遂行したことにより、相当高度の身体的・精神的疲労が蓄積したところに、同月二七日、B教育研究集会における発表が予定されていたことからその準備や発表及び自主的な研究会である「子どもの本について語る会」の開催も近くに予定されていたためその準備の必要もあったことなどから、右の疲労を十分に回復することができずに疲労が累積的に蓄積していき、その他児童会活動の指導も重なっていた。このような状態においても、訴外Aはポートボール練習の指導を熱心に続け、発症当日の同月二八日においては相当程度に疲労が蓄積していたにもかかわらず、ポートボールの練習試合の引率指導を行い、ポートボール練習試合の審判を開始して約二五分後に倒れたものであり、以上の一連の経過における訴外Aの勤務による負担、殊に、同月二四日以降の負担は相当程度に高度であったものということができ、このような状態においてポートボール練習試合の審判をしたことによる身体的・精神的負荷が加わったことにより、訴外Aの受けた身体的・精神的負担は、前記血管腫様奇形等の素因等に作用し、脳内微小血管の破裂を生じせしめるに足りる程度のものと認めることができ、他に特記すべき身体的・精神的負荷を惹起すべき要因ないし特発性脳内出血の発症原因となるような要因は認められない。〔中略〕 以上によれば、訴外Aの特発性脳内出血の発症について、同人の受けた公務による身体的・精神的負担は特発性脳内出血を発症させるに足りる程度の過重な負担であると認められ、かつ、他に特記すべき身体的・精神的負担を惹起すべき要因ないし特発性脳内出血の発症原因となるような要因は認められず、医学的に公務との因果関係が明確に否定されるなどの特段の事情は存しないから、訴外Aの公務と素因等が共働原因となって特発性脳内出血を発症させたものと推認することができ、したがって、公務と特発性脳内出血の発症との間には相当因果関係が存在するものと認めるのが相当である。 |