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ID番号 05704
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 株式会社博多大丸事件
争点
事案概要  労災事故により損害をこうむった被害者が加害者に対して行なった賠償請求に関連して、A保険会社による労働災害総合保険に基づく保険給付を損害額から控除すべきか否かが争われた事例。
参照法条 民法709条
労働者災害補償保険法12条の4
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1990年3月7日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (ネ) 442 
裁判結果 棄却(上告)
出典 タイムズ737号170頁
審級関係 一審/福岡地/平 1. 5.31/昭和61年(ワ)2616号
評釈論文 遠藤一治・ほうむ〔安田火災海上〕42号129~133頁1996年10月/遠藤一治・損害保険判例百選<第2版>〔別冊ジュリスト138〕150~151頁1996年6月
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 右認定のとおり、本件保険契約は雇用主を保険契約者、被保険者として締結され、被用者は直接に保険会社に対しては保険金請求権を有しないが、雇用主は被用者に対しての支払を義務付けられており、その被用者が災害等により就業不能等となり、その結果生じた損害で労災保険補償により填補できない部分を更に填補し、もって一次的には労働者である被用者の救済を、二次的には雇用主の出捐ある場合にその填補を図ることを目的としているものであり、重複保険の場合の按分支払の条項も存することを勘案すれば、本件保険のうちの、特に法定外補償条項の第三者災害による場合は、実質的には右就業不能を保険事故とし、これにより被用者に生じた損害を保険証券記載の金額を限度として填補することを目的とした損害保険の一種を定めたものと解するのが相当である。
 もっとも、約款上は、保険金は被保険者である雇用主に支払われるもので、災害を受けた被用者が保険会社に対して直接の保険金請求権を有するものではなく、雇用主への支払により直ちに保険会社が第三者に対する損害賠償請求権を取得するとはいえず、前記約款の第三章二三条は、一次的には、保険金の被用者への支払による雇用主の損害賠償請求権の代位取得とこれに続く同請求権の保険会社への譲渡を予定していると解されるが、要は労災補償法一二条の四の損害賠償請求権の代位取得と同旨を定めたものというべく、被保険者の協力のもとに、出捐した保険会社に請求権を取得させることを約し、これを明らかにしたものということができる。
 しかるところ、本件保険金は前記の5の確約書に従い、直接に保険会社であるA会社から被控訴人に支払われたもので、もとより被控訴人はB商店の本件保険契約の締結、同契約の内容等を知悉しながら、保険金を代理受領したものであるから、A会社の損害賠償請求権の代位取得を承認したものと解釈するのが相当である。〔中略〕福岡県弁護士会からの照会に対し、保険会社であるA会社は被控訴人の損害賠償請求権を代位取得した旨の回答をしていることが認められる。
 以上のとおりであるから、A会社は控訴人らに対する損害賠償請求権を取得したもので、その結果として被控訴人は保険金の支払を受けた限度で損害賠償請求権を喪失するのであるから、本件保険による給付分は被控訴人の損害から控除されるべきものである。