全 情 報

ID番号 05721
事件名 公務外認定処分取消請求事件
いわゆる事件名 地方公務員災害補償基金京都府支部長(下鴨中学校教員)事件
争点
事案概要  公立中学校教諭が修学旅行引率中に脳内出血により死亡したケースにつき、その遺族が公務災害でないとした地方公務員災害補償基金支部長の処分の取消を求めて争った事例。
参照法条 地方公務員災害補償法31条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1990年10月23日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (行ウ) 27 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 タイムズ753号150頁/労働判例590号72頁
審級関係
評釈論文 小西國友・ジュリスト1001号134~137頁1992年6月1日
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 地公災法が、労働者災害補償法、国家公務員災害補償法などと同様に、労働基準法の使用者による災害補償制度を基礎に発展してきた労災補償制度の一環であること、現行の労災補償制度は、労働者の私生活領域における一般的事由により生じた傷病から区別して、労働関係に内在ないし通常随伴する危険により生じた労働者の死亡、負傷等の損失を、その危険の違法性や使用者の過失の有無を問わず、いわゆる従属的労働関係に基づき労働力を支配する使用者の負担において補償しようとするものであることに照らし、地公災法による職員の災害補償の対象は公務により生じた死亡等に限られるのであって、公務に関連する発症ないし死亡のすべてを補償の対象とすべきものと解することはできない。〔中略〕
 地公災法三一条にいう「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に因り死亡し、負傷し、若しくは疾病にかかり、若しくはこれらにより死亡したものを指し(地方公務員法四五条一項参照)、右の死亡、負傷又は疾病と公務との間に相当因果関係のあることが必要であり、かつ、これをもって足る(最判昭五一・一一・一二集民一一九号一八九頁参照)。そして、公務上災害であることを主張する原告において、この事実と結果との間の相当因果関係を是認しうる高度の蓋然性を証明する責任、即ち、通常人が合理的疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうる程度の立証をする責任があると解するのが相当である(最判昭五〇・一〇・二四民集二九巻九号一四一七頁)。〔中略〕
 公務災害と認めるのに必要な相当因果関係は、使用者である地方公共団体自身において、予見していた事情、及び健全な常識と洞察力のある者が認識し得た一切の事情を前提として、公務によって所属職員の疾病または死亡が生じたもので、これが公務に内在し又は通常随伴して生ずるものといえるものであること、即ち、公務なければ疾病、死亡がないといえる関係、または、それが同種の結果発生の客観的可能性を一般的に高める事情にあると判断されることが必要である。
 民法の不法行為では、事実上の因果関係と保護範囲ないし額の問題とを区別する必要が生ずるのに対して、地公災法の死亡、疾病と公務の起因性においては、その保護の範囲ないし額は一定であって、公務起因性が認められる以上、その責任の範囲ないし額に差異を設ける余地はない点で、不法行為の事実上の因果関係と異なる面があり、公務起因性の場合には前示のとおり、相当因果関係につき結果発生の客観的可能性の予見ないし予見可能性が必要であると考える。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 前認定一4の各事実の経過のとおり本件修学旅行の引率につき突発的な異常事態は発生しておらず、通常の経過をたどったごく普通のものであって、Aは従前にも昭和三二年から昭和五一年まで前後八回にわたり日光、東京、箱根などへ修学旅行の引率をしており、経験も豊富であるし、本件旅行では殆どバス内で休息していたことが認められるのであって、一般的にはこれらの業務により一過性血圧上昇を来たし、普通の健康人の小脳血管壁が破裂して小脳出血を発症するにいたる程度のものとはいえないので、これにより使用者である京都市において、本件発症前後において豊一の小脳血管がすでに壊死状態にあり、これが通常の本件修学旅行の引率業務によっても生ずる一過性の軽度の血圧上昇によっても破裂して小脳出血を発症することを認識し、又は、認識し得べき客観的可能性があったものと認めることができないから、この点でも公務と小脳出血との間に相当因果関係はないというほかない。したがって、Aの死因を劇症型の小脳出血によるものとみたとしても、その公務起因性は認められない。