ID番号 | : | 05725 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 高島屋工作所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 労働者が、目の病気を理由に使用者に対して、労安法六六条に基づく措置として、配置転換等の履行請求およびそれについての協議を開始するまでの間の損害賠償が請求された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働安全衛生法66条7項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1990年11月28日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成2年 (ワ) 4609 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労経速報1413号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 使用者は、労働契約に基づき労働者から労務提供を受けるにあたり、通常は当該労働者が勤務する時間、場所、方法、態様等を指示し、又は機械、器具を提供することを約している場合が多いのであるから、かかる場合、使用者としては、右具体的な労務指揮又は機械、器具の提供にあたって、右指示又は提供に内在する危険に因って労働者の生命及び健康に被害が発生することのないよう配慮する義務(以下、配慮義務という)があると解するのが相当である(これ自体は労働安全衛生法の規定を待つまでもない。) しかし、右配慮義務は、労務の提供義務又は賃金の支払義務等労働契約における本来的履行義務とは異なり、あくまで労働契約に付随する義務であり、予めその内容を具体的に確定することが困難な義務であるから、労使間の合意その他の特段の事情のなき限り、労働者は、裁判上、使用者に対し、直接その義務の履行を請求することはできず、労働者に疾病の発生又はその増悪等の具体的結果が惹起した場合において始めて事後的にその義務の具体的内容及びその違反の有無が問題になるにすぎないものと解するのが相当である。 そこで、労働安全衛生法に原告が主張する規定が存在することが、右特段の事情すなわち付随的義務たる配慮義務の一態様である「使用者の業務内容の変更、配置の転換等の具体的措置を提示し、協議を開始すべき義務」を本来的履行義務にまで高めたものか否かにつき考えるに(なお、本件では、原、被告間でこれを直接請求できる旨の合意があったとの主張はない)、労働安全衛生法の規定一般についてはともかく、同法六六条七項は、その規定の仕方自体が、「事業主は、……労働者の健康を保持するため必要と認めるときは…」あるいは「労働者の実情を考慮して」等抽象的、概括的であるうえ、同条一項ないし三項あるいは六項と異なり、右規定に違反する事業主に罰則を課すことは予定されていないことからすると、右規定が存在することのみから、直ちに、その規定が使用者に命じた行為内容が、使用者の労働契約における本来的履行義務になったとまで認めるのは困難である。 したがって、被告が労働安全衛生法六六条七項の趣旨に従い一般的に原告の健康に配慮する義務を負っていることは認められるにしても、右債務は、前記意味で付随的債務にすぎないのであるから、これを根拠にその履行を直接請求する趣旨で提起された原告の本訴請求は理由がないものといわざるを得ない。 |