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ID番号 05734
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 国鉄清算事業団(JR九州)事件
争点
事案概要  氏名札の着用を拒否した者に対してなされた指導訓練において、就業規則等および企画商品の筆写が命じられたことにつき、右指導訓練・受講の拒否を理由としてなされた減給処分の効力が争われ、かつ、右減給処分および指導訓練の違法を理由として損害賠償が請求された事例。
参照法条 日本国有鉄道法31条
民法709条
労働基準法89条1項9号
労働基準法2章
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令
裁判年月日 1990年12月13日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 838 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例575号11頁
審級関係
評釈論文 香川孝三・ジュリスト1003号111~114頁1992年6月15日/石井将・労働法律旬報1259号47~51頁1991年3月10日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 懲戒権者が、当該職員を懲戒処分するか否か、また、どのような懲戒処分を選択するかを決定するに当たっては、懲戒事由に該当すると認められる所為の外部に表れた態様のほか右所為の原因、動機、状況、結果、当該職員のその前後における態度、懲戒処分等の処分歴、社会的環境、当該処分の影響等の諸事情を総合考慮したうえで、企業秩序の維持確保という見地から考えて、処分すべきか否か、どのような処分が相当かを判断しなければならない。尤も、右の判断については懲戒権者の裁量が認められるが、右裁量には、恣意にわたることを得ず、懲戒権者に懲戒権を付与した目的を逸脱して、処分すべきでないのに処分したり、あるいは、当該行為との対比において甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであってはならない。そして、懲戒権者の処分が右のような限度を超えて社会通念上著しく妥当を欠いた場合、それは懲戒権者の裁量権を濫用したと認められ、右処分は違法無効と判断すべきこととなる。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 A区長らが原告X1・同X2に対して行った指導訓練のうち、就業規則等の規定及び企画商品の筆写を、前示のような態様で長期にわたって強制した行為は、職場内教育基準規程が管理者に付与した指導教育権の行使とは認められず、違法に右原告らに侵害を与えた不法行為と認められる。
 前記三で述べたとおり原告X1・同X2に対する減給処分(一)は無効であり、国鉄(九州総局長)が右処分に基づいてした別紙損害金目録(一)記載の賃金カット等(額については当事者間に争いがない。)は、経済的利益の侵害であるから、被告はこれを賠償すべきである。
 被告は、減給処分(一)や被用者であるA区長らの前記四で認定した不法行為によって被った原告X1・同X2の精神的肉体的苦痛の損害を慰謝するためには、一切の事情を考慮して、右原告ら一人につき、各六万円宛を支払うのが相当である。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕
 使用者がある事項に関して業務命令を発し得るか否かは、一般に労働者との間の当該労働契約で労働者が労働力の処分を許容した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものである。そして、個別交渉の余地が少ない大企業(国鉄もこれに含まれる。)にあっては、個々的に労働契約の中で右事項が明示されなくとも、労働条件を定型的に定める就業規則等の規定がある場合、右規定が労働基準法一五条の趣旨に反せず、その内容が合理的なものである限度において、当該労働契約の内容となるのであり、その範囲内であってはじめて使用者は業務命令を発し得るものと解される。したがって、就業規則二七条が、車掌職の原告福本らに除草作業を義務として課するについて合理的なものと認められるのかどうかを検討する必要がある。