ID番号 | : | 05751 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 岩井金属工業(東條)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 従業員集会で社長に罵声をあびせたこと、プレス機を毀損したこと等を理由に解雇された労働者がその効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟 解雇(民事) / 解雇事由 / 上司反抗 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1991年2月22日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成3年 (ヨ) 25 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部却下 |
出典 | : | 労働判例591号69頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-上司反抗〕 債務者の主張する解雇理由の1は、債権者が平成二年一〇月一三日の従業員集会において、A社長が集会場に入るとき罵声を浴びせ、また、同社長の発言を妨害したというものである。しかしながら、一件記録によれば、債権者は同年六月六日に結成された組合の青年部長であること、債務者会社においては、同年一〇月四日ころAが社長に就任して以来、組合幹部を呼び付けて組合の解散を迫ったり、職制を動員して組合員に脱退を強要したり、組合員という理由だけで職務に差別を加えるなど、露骨に組合敵視する態度を取り、同月一三日にはその執行委員長であるBに対しA社長においてさしたる理由もないのに突然解雇を通告したこと、その解雇通告の直後に開かれた従業員集会において、債権者は、集会場の前方に向かっていたA社長に対して一言「不当だ。」と抗議し、また、同社長が話を始める前に「あんまりおかしいんではないですか。」と発言したものの、それ以外は全く発言していないこと、以上の事実を認めることができる。そうすると、Bの解雇については債務者に非があると思われること、組合員である債権者がそれに対して抗議するのは当然であり、抗議の態様も平穏な程度に止まっていると言えることに鑑みれば、債務者の主張するような事実はなく、若しくは故意に事実を誇張したものであって、その主張は当たらないと言わざるを得ない。 〔解雇-解雇権の濫用〕 以上のとおり、本件解雇は、事実に基づかないでなされたものであるか、若しくは事実を故意に誇張し、又は解雇理由となし得ない事由を基礎としたものであって、解雇権の濫用として無効である。そして、債権者がその従業員たる地位を保全すべき必要も当然にあるというべきである。 〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕 賃金仮払いを命ずる仮処分は、賃金の支払いが断たれることによって労働者の生活が危機にひんし、本案判決の確定を待てないほどに緊迫した事態に立ち至るのを暫定的に救済することを目的とするのであって、保全すべき権利の終局的実現を目的とするものではないのであるから、仮払いを命ずるべき金額は当該労働者の生活を維持するに必要な限度に止まるものである。そのことからすると、通勤手当及び食事手当については、これらは現実にされた通勤や勤務に伴う費用を弁償するために支給されるのであるから、生活補償とは関係が無く、仮払いの必要性を肯定することはできない。しかし、その反面、本件事案に係る諸事情、なかんずく債務者が組合を執ように敵視して前記井手窪に続いて債権者といった組合役員を立て続けに解雇し、紛争が容易に解決するとは思われないことに鑑みれば、債権者が本件解雇前一年間に受けた基本給及び諸手当(ただし、通勤手当及び食事手当を除く。)の総金額を基礎として算出した月平均額をもって仮払いを命ずることも本件においては合理性があるというべきであり、その金額は二一万六〇八一円(二五九万二九七七円÷一二)であって、都市生活を送る独身勤労者にとってその生活を維持するに一応必要な金額と認められることからすると、右金額の限度において仮払いを命ずるべきである。 |