ID番号 | : | 05756 |
事件名 | : | 雇用関係確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 葵交通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 乗車拒否をしたタクシー運転手が「已むを得ない業務上の都合のあるとき」にあたるとして解雇され、その効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 名誉・信用失墜 解雇(民事) / 解雇事由 / 已ムコトヲ得サル事由(民法628条) |
裁判年月日 | : | 1991年4月5日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和63年 (ワ) 17384 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例590号54頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕 被告の就業規則三五条は、従業員が本人の死亡(一号)、退職の願出(二号)、定年(三号)、休職期間満了までに復帰しないとき(四号)、精神又は身体障害のため就業につけず、その回復の見込みのないとき(五号)、懲戒解雇されたとき(六号)、已むを得ない業務上の都合のあるとき(七号)の一に該当するときは退職又は解雇とすると定め、同五八条は、会社の名誉を毀損し、又は従業員の対面を汚したとき(一号)、素行不良で他の従業員に悪影響を及ぼしたとき(二号)、重要な経歴又は住所、氏名を偽り又は偽って入社したとき(三号)、故意又は重大な過失で会社に不利を与えたとき(四号)、正当な理由なく遅刻、早退又は欠勤の多いとき(五号)を懲戒事由と定めている(〈証拠略〉)。 右退職又は解雇事由の規定を総合的にみると、就業規則三五条七号の「已むを得ない業務上の都合のあるとき」とは、被告の経営不振等による事業の縮小など企業側の客観的障害による場合のみならず、従業員の雇用契約上の義務違反等のため、業務の遂行上支障が生じ、あるいはそのおそれがあって、業務の円滑な遂行を図るうえで従業員を解雇するのも已むを得ないと認められる場合をも含むと解するのが相当である。 〔解雇-解雇事由-名誉・信用失墜〕 乗車拒否行為は、道路運送法一三条(平成元年法律第八三号による改正前の道路運送法一五条)に定めるタクシー事業者の運送引受義務に違反する行為であり、また、利用者の利便を著しく妨げ、タクシー事業の適正な運営を著しく阻害しかねない行為である。 このように乗車拒否行為は、公共性を有するタクシー事業の使命に反する重大な行為であるといわざるを得ず、社会的にも大きな非難を受けており、利用者のタクシー事業への不信を呼び、その業務に支障を及ぼすおそれがある行為である。〔中略〕 原告のした乗車拒否行為は、重大な職務違反行為であり、利用者の利便を妨げ、タクシー事業に対する信用を害し、ひいては被告のタクシー事業に支障を及ぼしかねない行為であり、また、被告においても、乗車拒否行為の内容を従業員に指導し、処分基準を設けて従業員に周知しており、それにもかかわらず、原告はタクシー乗務員としては禁止されている乗車禁止地区営業に続き本件乗車拒否行為をしたのであるから、本件乗客が比較的簡単に乗車を断念したことや原告の乗車拒否が本件のみであることを考慮しても、被告の原告に対する信頼関係は著しく損なわれ、被告のタクシー事業の円滑な遂行上雇用契約を解消されてもやむを得ない事由があると認めるのが相当である。したがって、原告には被告の就業規則三五条七号に該当する事由が認められる。 |