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ID番号 05759
事件名 労働者災害補償給付に関する処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 大垣労働基準監督署長事件
争点
事案概要  チエンソーを使用して立木の伐採作業に従事していた労働者の騒音性難聴についての障害補償請求権につき消滅時効が完成しているか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法42条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 時効、施行前の疾病等
裁判年月日 1991年4月24日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (行コ) 10 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働民例集42巻2号335頁/タイムズ774号177頁/訟務月報37巻11号2106頁/労働判例591号48頁
審級関係 一審/05237/岐阜地/平 2. 4.23/昭和61年(行ウ)10号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-時効、施行前の疾病等〕
 法四二条は、障害補償給付を受ける権利は五年を経過したときは「時効」によって消滅するものと規定し、また、法三五条二項は、保険給付に関する請求に基づく決定がされた場合においてもなお消滅時効が進行することを当然の前提としたうえで、その決定を不服としてする審査請求及び再審査請求を「時効の中断」に関して裁判上の請求とみなす旨規定している。また、法は、昭和二二年法律第五〇号による制定以来数次の改正を経ており、その間、法四二条そのものも改正の対象となっているが、その給付を受ける権利の消滅原因を終始「時効」であると明示しているのであって、これらからすると、法四二条により権利が消滅するのは除斥期間によるのではなく、時効によるというのが立法の経緯と法文の文理に沿う解釈であるということができる。
 ところで、障害補償給付を受ける権利は労働基準監督署長による支給決定処分に基づいて初めて金銭債権として行使できるものであるから、右支給決定処分前においては、法一二条の八及び労働基準法七七条により保険給付を受けるべき者といえどもその支払請求をすることができず、したがって、給付されるべき金銭債権の時効ないしその中断ということもあり得ない。そうすると、法四二条所定の「権利」は、被控訴人主張のとおり、法一二条の八により労働基準監督署長に支給決定処分を求める請求手続をする権利にすぎないというべきであって、この権利自体について法三五条二項の時効中断の余地を考え難いことも、被控訴人主張のとおりであるが、さりとてこのことから法四二条が除斥期間を定めたものということもできない。
 ところで、以上のとおり、法四二条が法一二条の八第二項により支給決定処分を求める請求手続の権利行使期間を制限した規定であると解するとしても、このことから、この期間の起算点を右権利の発生時点であるとする必然性があるわけではなく、右の起算点は、民法一六六条一項の一般原則に則り、「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」、すなわち、その権利の行使につき法律上の障害がなく、かつ、権利の性質上その権利行使が現実に期待できる時と解するのが相当である(最高裁昭和四〇年(行ツ)第一〇〇号同四五年七月一五日大法廷判決・民集二四巻七号七七一頁参照)。
 この点について、控訴人は、民法七二四条を類推すべきであると主張するが、損害及び加害者を覚知しなければ損害賠償請求権を行使できない民法の不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の起算点と業務起因性の疑をもつことのみにより法一二条の八第二項の請求をなし得る本件の場合とを同一視することは到底できないというべきであるから、民法七二四条を本件に類推することには十分な根拠はなく、殊に右の起算点を一般人の認識可能性を離れ当該労働者の不知により決することは相当ではなく、右主張を採用することはできない。