ID番号 | : | 05773 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 中央労働基準監督署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 小型漁船に乗り組んでカツオ漁をしていた季節労働者に発症した高血圧性脳内出血による死亡につき、業務災害でないとした労働基準監督署長の処分が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法施行規則35条 労働基準法施行規則別表1の2第9号 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1991年7月16日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和62年 (行ウ) 69 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 時報1397号118頁/タイムズ770号188頁/労働判例593号12頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小西國友・ジュリスト1006号141~144頁1992年8月1日 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 Aは、かような過重な労務の継続により疲労が蓄積した状態にあったところ、寒気が再来して寒さが厳しくなったその翌日である本件発症当日、午前三時ころ冷気の中を起き出し、B港からしゅう雨の中をC船で出港し、前日の時化の影響の残る外洋へ乗り出し、自ら、初めての経験である同船の舳先に乗っての魚群探索という、一本のロープを頼りに身体のバランスを保ちながら、海面付近を肉眼で凝視する、身体的、精神的緊張を強いられる業務に就き、身体及び精神に一層過度の負荷を受け、遂に魚群を発見できないまま一旦単なる監視態勢に入って間もなく船長から魚群発見を知らされて、漁獲作業を開始しようと緊張を高めた際に、本件脳出血を発症したものであり、しかも脳出血を発症しながらも何ら治療を受けるすべのない外洋上を全速で波を切って航行する船上の、他に適当な場所もないとはいえ、波しぶきのかかる船舷に横たわって、発症後一時間以上も揺られながら帰港し、結局、二日後に死亡するという経過を辿ったものである。 なお、平成元年四月一四日及び同月一五日の両日、循環器疾患の疫学を専門とする国立公衆衛生院疫学部成人病室長Dは、漁夫の出漁中の血圧の変動要因について、現に魚を釣り上げる激しい作業を実行しているときに専ら血圧の上昇をきたすものであるのか、それとも他にも血圧を上昇させる要因があるのかを調査するために、C船に乗船して、同船の乗員(同月一四日は、船長E、日ごろは運転手をしていて季節的に漁労につくことのあるF〔三三、四歳〕、Dを、同月一五日は、E、G、Dをそれぞれ被検者とした。)の血圧の変動状況を自動連続血圧測定装置によって、航行中三〇分おきに測定した。その結果は、血圧上昇の大きな要因として特定のものを確定するには至らなかったが、漁獲作業中だけでなく、魚群探索の状態にあるときも血圧が上昇することがあり、魚群を待って待機している時間中も、精神的緊張は必ずしも緩んでおらず、魚群に出会わないまま、航行を続けていることが、かえって、漁獲作業中の緊張とは性質の異なる疲労感の残る負荷となることが窺われた。〔中略〕 Aに認められる基礎的病態の程度は軽度である一方、本件業務及びこれによってもたらされた身体的、精神的負荷の内容、性質、程度、経過が極めて過重なものであったことからすると、Aの本件疾病は、高血圧傾向、動脈硬化という基礎的病態を背景として、昭和五七年一月一六日以来の厳しい労働環境の中にあって、累増する身体的、精神的負荷を受けて蓄積された疲労を高めつつ、発症数日前からのとくに著しい負荷を相対的に有力な原因として発症したものと判断するのが相当である。この点、東京労働基準局医員Hも、昭和五七年九月一八日付け意見書において、Aに、「病的素因ないし基礎的疾患」として「肥満、高血圧症、心電図異常所見(完全左脚ブロック、心筋虚血の疑い)」があったという前提に立ってすら(そこで病的素因ないし基礎的疾患とみなされた「肥満、高血圧症、心電図異常所見(完全左脚ブロック、心筋虚血の疑い〕」のうち、前二者は高度なものではないことは前記のとおりであり、完全左脚ブロックが誤読であることは後記のとおりである。)、「就労のために、病的素因ないし基礎的疾患が自然的増悪を越えて、急激に増悪して脳出血を誘発した可能性を否定することは難しい」と判断しているところである。 そうすると、Aに対する本件業務による負荷と本件発症との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当である。 |