ID番号 | : | 05775 |
事件名 | : | 懲戒処分無効確認等、不当労働行為確認等、地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日通名古屋製鉄作業所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 製鉄会社内で運送・荷役を行なう会社に勤務していた者が暴力行為を理由に自宅謹慎処分およびその後に懲戒処分を受け、また、会社に無断で他社でタクシー運転手をしていたとして懲戒解雇されたことにつき、自宅謹慎処分中の賃金の支払い、懲戒処分および懲戒解雇処分の無効を主張して争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法24条1項 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 自宅待機命令・出勤停止命令 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 休職処分・自宅待機と賃金請求権 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止 |
裁判年月日 | : | 1991年7月22日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和54年 (ワ) 835 昭和54年 (ワ) 1380 昭和60年 (ワ) 2673 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部却下,一部棄却(控訴) |
出典 | : | タイムズ773号165頁/労経速報1453号3頁/労働判例608号59頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小宮文人・法学セミナー37巻12号141頁1992年12月/土田道夫・ジュリスト1019号175~178頁1993年3月15日/林豊・平成4年度主要民事判例解説〔判例タイムズ821〕310~311頁1993年9月 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-自宅待機命令・出勤停止命令〕 〔賃金-賃金請求権の発生-休職処分・自宅待機と賃金請求権〕 被告が本件懲戒処分に先立ち、原告に対し昭和五二年九月二六日から同年一〇月三日まで自宅謹慎を命じ、その間の賃金三万九五五二円を控除したことは当事者間に争いがない。〔中略〕 被告が右賃金控除をした根拠は、前項2(五)記載のAにかかる暴行事件の際に同様の措置が執られ、それ以降、懲戒問題が生じて自宅謹慎を命ぜられ、後に懲戒処分が決定した場合その期間は欠勤扱いとする旨の慣行が成立しており、訴外組合もそのことを了承していたということにあると認められる。しかしながら、このような場合の自宅謹慎は、それ自体として懲戒的性質を有するものではなく、当面の職場秩序維持の観点から執られる一種の職務命令とみるべきものであるから、使用者は当然にその間の賃金支払い義務を免れるものではない。そして、使用者が右支払義務を免れるためには、当該労働者を就労させないことにつき、不正行為の再発、証拠湮滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存するか又はこれを実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠が存在することを要すると解すべきであり、単なる労使慣行あるいは組合との間の口頭了解の存在では足りないと解すべきである。 本件においては、右緊急かつ合理的な理由又は懲戒規定上の根拠の存在を認めるに足りる証拠は存在しないから、被告が行った右賃金控除は、単なる賃金不払いとみざるを得ず、したがって、本訴請求中、右控除分につき賃金支払いを求める部分は理由がある。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-二重就職・競業避止〕 被告会社の就業規則六三条に「社命又は許可なく他に就職したとき」は懲戒解雇に処する旨の定めがあること、被告は昭和六〇年三月二九日原告に対し、原告が右規定に違反したことを理由として解雇する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。〔中略〕 たしかに、労働者は、勤務時間外においては、本来使用者の支配を離れ自由なはずであるが、勤務時間外の事柄であっても、それが勤務時間中の労務の提供に影響を及ぼすものである限りにおいて、一定限度の規制を受けることはやむをえないと考えられる。これをいわゆる兼業の禁止についてみるに、労働者が就業時間外において適度な休養をとることは誠実な労務の提供のための基礎的条件であり、また、兼業の内容によっては使用者の経営秩序を害することもありうるから、使用者として労働者の兼業につき関心を持つことは正当視されるべきであり、労働者の兼業を使用者の許可ないし承認にかからせることも一般的には許されると解される。したがって、前記就業規則の定めを当然に無効であるとする原告の主張は、採用し難い。 そこで、本件について具体的にみるに、原告の兼業がB株式会社との継続的な雇用契約によるものか、単なるアルバイト的なものであるのかは必ずしも判然としないが、その勤務時間は、場合によっては被告会社の就業時間と重複するおそれもあり、時に深夜にも及ぶもので、たとえアルバイトであったとしても、余暇利用のそれとは異なり、被告への誠実な労務の提供に支障を来す蓋然性は極めて高いといわなければならない。したがって、仮に前記就業規則の定めがいわゆるアルバイトを含めて一切の兼業を禁止するものとは解し得ないとしても、原告の本件兼業が前記就業規則の禁止する兼業に該当することは明らかであり、本件証拠中に現れた被告会社の他の従業員にみられる兼業とは性質を異にするといわなければならない。 原告はまた、被告が原告から仕事を奪い、かつ賃金を低劣な水準に押さえ込んできたのであるから、原告の兼業は緊急避難ないし正当防衛行為であると主張する。しかしながら、原告の右主張は、被告が原告に対して執った各処分ないし措置が不当労働行為であることを前提とするものであるところ、そのこと自体否定されるべきものであることは前記のとおりであり、原告が被告会社において受けた処遇の原因は主として原告自身にあるというべきであるから、原告の右主張は採用しがたい。 |