ID番号 | : | 05778 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 南海電気鉄道事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 助役に対する暴行を理由として懲戒解雇された従業員(電車運転士)が、その効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1991年7月31日 |
裁判所名 | : | 大阪地堺支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成2年 (ヨ) 197 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例595号59頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕 申請人の行為が賞罰規程第一五条(5)の「会社内において、傷害、暴行、脅迫、と博並びに風紀秩序を乱す等の行為があったとき」に形式上該当することは明らかである。しかし、会社が懲戒権を行使する場合客観的に妥当な処分をなすべき義務があるものというべきであり、(証拠略)によれば、現に会社の賞罰規程においても「軽微であったとき」とか「その他特別の事情により情状酌量の余地があると認められたとき」には「その懲戒を軽減または免除することがある」(第一二条)と定められている。 申請人の行為は、安易にこれを容認できないものであることはいうまでもないけれども、暴行の態様としては比較的軽い部類に属するものであり、かつ傷害の結果も日常生活に影響を及ぼさない軽微なものと認められるうえ、右行為に至る事情にしても、ありていにいえば、当日申請人は早朝から生じた列車の遅れを取戻すべく回復運転等神経を使う業務に従事しつつ、普段と違って朝食のとれないまま次の乗務を控えて心せかれる思いをしていた折から、たまたま早めに食事を確保せんとしていたA助役を見て立腹し、さらに同助役の挑発的な言葉に興奮して、思わず手と足が出てしまったというのが真相に近いものと思われるのであって、偶発的な色彩が濃く、しかも短時間で収拾された結果職場内にもさしたる混乱をもたらさなかったものと認められ、そうだとすれば、申請人がこれまで必ずしも申し分のない運転士とはいえず、上司から言葉遣いや服装等でたびたび注意指導を受けていたこと(〈証拠略〉)等申請人につき不利な事情(被申請人は、申請人が審尋等で暴行を否認するなど反省の態度が見られないというが、申請人が当初暴行を認めたのはその程度では懲戒解雇になるとは思わなかったためで、乱暴した事実を深刻に受け止めなかった点は問題ではあるが、これが申請人の予想に反し懲戒解雇という厳しい処分に直面した以上は、これを不当処分として自己の権利を守るべく最大限に抗争せんとするのはやむをえないものがあるのであって、右抗争態度をことさら申請人に不利な事情として重視するのは相当でない。)を考慮しても、申請人に対し、賞罰規程第一五条(5)にいう「会社内において、傷害、暴行等の行為があった」という理由で懲戒解雇に及ぶことは、その処分に至る事実の評価が過酷に過ぎ、その情状の判定、処分の量定等の判断を誤ったものというべきであり、結局、その処分が客観的妥当性を欠くが故に、賞罰規程適用の誤りとして、懲戒解雇は無効と解するのが相当である。 |