ID番号 | : | 05786 |
事件名 | : | 解雇無効確認請求事件/損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 蒲商事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 取締役が会社の指示に違反した販売を行ない、会社に損害をかけたとして懲戒解雇されたうえ、損害賠償を請求された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 民法709条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠 |
裁判年月日 | : | 1991年8月27日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和62年 (ワ) 9901 昭和62年 (ワ) 11353 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却 |
出典 | : | 労経速報1440号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕 使用者がその雇用する従業員に対して行う懲戒解雇は、使用者が、企業秩序を維持するため、これに違反した従業員に対し制裁として課する解雇である。従業員が雇用契約に基づき企業秩序の維持確保を図るべき一般的義務を負うことは認められるにしても、懲戒解雇の右のような制裁としての本質に鑑みると、使用者が従業員を懲戒解雇するためには、従業員のいかなる秩序違反行為が懲戒解雇事由となるのかが、法律、就業規則又は使用者と従業員との合意によって明らかになっていることが必要であり、使用者は、従業員と雇用契約を結びさえすれば、右のような定めがなくとも、その固有の権利として、当然に従業員を懲戒解雇できる権限を有するとする見解は相当でない。したがって、使用者と従業員との間に、懲戒解雇事由につき法律、就業規則等による具体的定めがなければ、使用者は、たとえ従業員に企業秩序違反の行為があったとしても、その労働者を懲戒解雇することはできないものというべきである。 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕 被告においては、これまでも商品の販売に基づく不良債権が発生したことはあったが、右債権が回収できないことによる損害をその取引を担当した従業員あるいは取締役個人に対し請求したことはなく、昇給幅の削減、賞与の減額あるいは降格等の処分を行うことによるその責任を追及していたにすぎない。 右で認定した事実によると、被告会社は代表者Aがその全てにつき決定権を有する会社であり、原告は取締役であるといっても、その実質は多額の取引実績を有する営業担当従業員にすぎないこと、被告は営業会議において取締役も含めて個々の営業担当者がなす取引の詳細を認識し、これを決済していたこと、原告もその例外ではなく被告は原告が担当する取引内容を把握してこれに対処していたこと、新規取引先を開拓することが原告の担当業務に含まれていたため、原告がなす取引から不良債権が発生する確率が高いこと、さらに、過去に被告が個々の担当者がなした取引の結果蒙った損害の賠償を個人に対し請求した事例がないことが認められる。 右事実からすると、原告が従業員又は取締役として被告に対して負うべき注意義務は、営業会議又はAに対し原告が認識した事実若しくは得た情報を正確に伝達し、これに基づき営業会議又はAがなした明示あるいは黙示の指示若しくは了解の範囲内で取引を実行することであり、原告なした行為が営業会議の指示あるいは了解の範囲内と認められるにもかかわらず、右行為により被告に損害が生じたとしても、その損害を賠償する責任はないものと解するのが相当である。 |