ID番号 | : | 05791 |
事件名 | : | 懲戒免職処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 長崎大学付属病院事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 成田空港反対闘争において逮捕され懲戒免職処分を受けた国立大学付属病院の看護婦が、当該懲戒免職処分の効力を争った事例。 |
参照法条 | : | 国家公務員法82条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界 |
裁判年月日 | : | 1991年9月5日 |
裁判所名 | : | 長崎地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成1年 (行ウ) 2 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例597号21頁/労経速報1454号6頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕 公務員の懲戒処分は、もとより刑事処分ではないのであって、その処分は、処分理由となった行為の刑法的な側面に注目してなされるのではなく、その行為が社会一般の目から見て公務秩序の維持及び国民全体の奉仕者としての公務員にふさわしいか否か、官職の信用を傷つけ官職全体の不名誉になることはないかというような観点からなされるものである。したがって、処分の対象となる行為も、右のような社会的な評価の対象となるべきものとして把握され、かつ検討されれば足りるということができる。また、そうだとすれば、評価の前提とされる行為そのものがどの程度に個々的に特定され、具体的に明らかにされていなければならないかということについても、刑法的な評価の前提とされる場合に比べて、それなりの幅を持って特定した上で、これを包括的に評価するようなことも許されようし、さらには、公務員が本件のような法治国家としては到底許容し難い過激派による反社会的な重大事犯に関連して現行犯人として官憲に逮捕され、それが大きく報道され社会的に問題にされるというようなことになれば、それが当該公務員の職務とは直接関連しない場合であっても、そのこと自体で、法規を遵守して全体に奉仕すべき責務を担っている官職全体の信用を大きく傷つけ、公務の信頼を失うことがあり得るのだから、そのような事態が予測される場合には公務員は自重してそのような結果になることを慎重に避けるべきであるのにこれを怠ったという意味合いで、その結果について一種の過失責任ないしは結果責任を負わなければならない場合があることも認めざるを得ない。 これを本件についてみると、原告の逮捕直前における具体的な行動自体は証拠上必ずしも明らかではないところがあるけれども、前述のように、以上に認定した限りにおいても、これを全体として見るならば、原告が、兇器を携帯して警察部隊に攻撃を加えた過激派集団と行動を共にしたと社会的に評価されること自体はやむを得ないことである。また、前記認定の現場の状況などによると、少なくとも前記逮捕時間に接着する時間帯に、前記のような服装で国道上にいた原告が、過激派集団の違法行為の制圧及び検挙に当たった機動隊員に兇器準備集合罪等の現行犯として逮捕されるに至ったこともやむを得ないことであって、これを違法逮捕であるとみることはできないから、結局、逮捕されるに至った責めは原告自身が負うしかないのである。そして、前記認定のような中核派を主体とする過激派集団の「武装闘争」が民主主義的な法治国家では到底許されない態様のもので、これがもたらした重大な被害や、後述のようにこれが社会に及ぼした衝撃の大きさ等に照らすと、そのような過激派集団と「行動を共にした」と評価され、かつ逮捕されるに至ったということは、法規を遵守し、国民全体に奉仕すべき公務員にふさわしくない非行であり、官職の信用を傷つけ官職全体の不名誉になる行為であって、国家公務員法八二条一号及び三号に該当するものというべきである。このことは、原告の本件行為が直接その職務に関連していないことや、原告の職種などを考慮にいれても同様である。 したがって、原告には本件処分理由に該当する国家公務員法上の懲戒事由が認められる。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕 国家公務員につき懲戒事由がある場合において、懲戒権者が懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかは、その判断が、懲戒事由に該当すると認められる行為の性質、態様等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、広範な事情を総合して判断すべきものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝にあたる懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきであり、懲戒権者が右の裁量権を行使してした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがって、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と右処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきものである(最高裁昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一二二五頁等参照)。 |