ID番号 | : | 05793 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大陽神戸三井銀行事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 顧客の預金を無断で引き出し、使途不明金を生じさせた銀行員に対する懲戒解雇の効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 |
裁判年月日 | : | 1991年9月9日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和63年 (ワ) 12258 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例597号18頁/労経速報1456号28頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 1 銀行は金銭の出入を業務として行なうために、特に信用が重んじられ、銀行員も銀行の信用を維持するための義務が強く要請されるものである。A会社の就業規則七条には銀行員の基本的義務として、信用を重んずべき義務、成規命令を遵守すべき義務、専断取扱禁止義務、公私混淆の禁止義務が定められている(〈証拠略〉)。これを具体化するものとして、A会社は、銀行員は通帳や印章を預ってはならない、代筆してはならない、現金をあずかってはならないという具体的なルールを銀行員としての基本的ルールとして定めている(〈証拠略〉)。 原告の前記二の1ないし4の行為は、以上のような銀行員としての基本的義務、動作に違反しており、就業規則六六条一ないし三号に該当するのであるが、違反といっても一概に同一視できないので、以下個別に検討することとする。 2 前記二の1の行為について検討するに、裏金を作るということが本来銀行員としてはしてはならない行為であるだけでなく、代筆したり、通帳を所持することは銀行員としての基本的ルールに違反しているといえるが、Bの了解は得ているので、同女に対する背信行為とまではいえない。 2の行為について検討するに、預金引き出しと使途不明金を出したことは、銀行の信用を失墜させる行為で、Bに対する重大な背信行為であることはもちろんであるが、銀行員としての職務義務違反の点でも、顧客の口座に手をつけて使途不明金を出すということは額の多寡にかかわらず、極めて重大な義務違反であるといわざるを得ない。 3の行為について検討するに、株券購入は、たとえBの意思に反していないとしても、銀行員の本来の職務ではない上に、それを預り続けていることは、銀行員の基本的ルールに違反するものであり、原告名義への変更は重大な背信行為である。 4の行為について検討するに、一〇〇〇万円を預り紛失したことは額も大きく、その後の処置も極めて悪く、銀行員としての職務義務に著しく違反している。 以上、総合すれば、1については懲戒解雇相当事由であるとはいえないが、2、4及び3のうち株券の原告名義への書換は極めて重大であって、懲戒解雇相当事由であると認められる。 3 原告の行為はこのように銀行員としての職務義務に違背しているのみか、顧客であるBに対する重大な背信行為となっており、その責任は極めて重大であり、原告は後日、Bに使途不明金と紛失した一〇〇〇万円を弁償しているけれども、これを考慮しても本件懲戒解雇はやむを得ないものというほかはない。原告は、本件懲戒解雇が適正手続に違反しているとか濫用であると主張するけれども、それをうかがわせる事実は認められない。原告の主張は採用できない。 |